余生を都市部でいかに過ごすか。多くの人が直面する問題だ (※写真はイメージ)
余生を都市部でいかに過ごすか。多くの人が直面する問題だ (※写真はイメージ)
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 都市の持つポテンシャルを信じて、東京で老いることを決めた人々を訪ね歩いた。ある人は大学生と同居し、ある人は高齢者同士で集住し、ある人は地域のキーパーソンを探し当てた。東京はもっと困っていい。それが、相互扶助を育む早道なのだ。

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 東京都練馬区にある一軒家。冷蔵庫の扉のボードに残る伝言が、ちょっとした「会話」になっていた。

<ちょっと お買いものへ行ってきます。すぐ帰ります。>

<おかえりなさい。お疲れ様でした>

 ボードの向かって右は宮本幸一さん(74)が書いたもの。左は、今年5月から同居する19歳の大学生が書いたものだ。年の差は55歳。都会に血縁のない若者と同じ屋根の下で生活する試みは、宮本さんにとっては2度目となる。

 誕生日には、海の幸いっぱいの手作り「バースデーずし」というサプライズプレゼントもあった。個々の生活を大事にし、日々の食事は別々にとる。互いに距離を保ちながらも、コミュニケーションを欠かさない。宮本さんは出かける学生を見送る際、NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」のセリフをまねて、「いっておかえりなさい」と声をかけている。

 同居のきっかけは「世代間交流ホームシェア」の取り組みを始めたNPO法人リブ&リブ代表の石橋ふさ子さんとの出会いだった。最初は、都内の音楽大学への進学を目指す受験生を紹介された。彼は岡山県から上京し合格するまでの1年間、宮本さん宅で暮らした。宮本さんは、成人して家を出た長女の部屋を提供。彼のために朝食をつくり置きしたこともある。逆に自宅で合唱団の歌唱レッスンをしたときは、彼がピアノを弾いてくれた。

●家族6人で暮らした家に血縁と世代を超えた絆

 全国の都市で増加する独居高齢者。空き部屋を抱えた独り暮らしのシニアは、厳しさが増す経済環境のなか地方から上京する学生と組み合わせることによって、都市の「資産」になりうる。リブ&リブの取り組みを続ける石橋さんはそう考えている。そして、宮本さんは「東京で老後を生きる」ために、血縁も世代も超えた共助の関係という「新しい絆」を育むことを選んだ。

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