●「首都」に限っていない

 そして、この数字は注意が必要で「30年以内に70%の確率で発生する地震で首都は壊滅的な被害を受ける」というのは大きな誤解だ。地震本部は、茨城県の南半分、埼玉県の東半分、東京都と神奈川県のほとんど全域、千葉県のすべてとその周辺海域という、南北東西とも約150キロにわたる広い範囲の「どこか」でM7級の地震が起きる確率を予測しているのであって、「首都」に限ったものではない。

「最大の被害をもたらす東京都心直下で起きる確率が70%、という意味ではない」

 と、地震本部地震調査委員長も務める平田教授は念を押す。

 中央防災会議が被害予測した断層は、活断層タイプを除いては、どこで起きるかわからないので、防災対策のために想定したにすぎない。首都直下地震の中では、都心南部で発生するものが最も大きな被害を引き起こすと想定しているが、これまでこのような地震が起きた記録は残っていない。

 工学院大学都市減災研究センター長の久田嘉章教授によると、220年間に起きたM7級8回のうち、大きな被害があったのは1855年の安政江戸地震(死者7千人以上)だけで、そのほかは1894年の明治東京地震(死者31人)など被害は比較的小さな地震ばかりだ。

「近い将来起こるM7級の首都直下地震は、中小被害をもたらすものである可能性が高い」

 と久田教授は言う。

 M7級の首都直下地震は、阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震(震源の深さ16キロ)と違い、千葉県東方沖(同58キロ)など震源が深いものが多い。また木造家屋を倒しやすい特殊な地震波(キラーパルス)が兵庫県南部地震では問題となったが、首都直下のプレート内部で起きる地震ではこのような地震波は発生しにくい。

●現実的「中小」への対策

 久田教授は、最悪の被害想定ばかり喧伝されて、「何をしても無駄」と、できるはずの対策をあきらめたり、中小規模の地震への対処が甘くなったりするのが怖いという。防災計画では「大は小を兼ねる」とは限らないので、現実的に起こりうる確率が高い「中小」地震への対策を充実させることも必要なのだ。

 大正関東地震の調査にもあたった寺田寅彦氏は、有名な言葉を残している。

「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい」

 たとえ中小地震でも、複雑で軟弱な地盤に日本の人口の約3割もが集まる首都圏では、影響を受ける人は多い。対処を間違えれば、エコノミークラス症候群による震災関連死のように、救えたはずの命まで失うことになる。着実に対策を進めるしかない。(ジャーナリスト・添田孝史)

AERA 2016年9月5日号

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