「関東周辺のプレート境界」と「南関東地域で発生する地震の発生場所」(中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループが発表した「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」から)
「関東周辺のプレート境界」と「南関東地域で発生する地震の発生場所」(中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループが発表した「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」から)
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 マグニチュード(M)7級の地震が起こる確率は、関東地方で「30年以内に70%」と予測される。それより大きなM8級が起きる可能性は? 巨大地震を引き起こすメカニズムは?

 関東大震災を引き起こした大正関東地震(M7.9、1923年)より、さらに大きな元禄関東地震(M8.2、1703年)級の大地震は、これまで2千~3千年間隔で繰り返すと考えられてきた。その定説を覆し、2千年未満のもっと短い間隔で起きていた可能性があったとする発見が今年5月、千葉・幕張で開かれた日本地球惑星科学連合大会で発表された。

 産業技術総合研究所地質調査総合センターの宍倉正展・海溝型地震履歴研究グループ長は言う。

「関東地方で起きるM8級の大地震は、これまで考えられていたより、発生の仕方に多様性があった可能性が見えてきた。過去いつ発生したのか、その履歴についても、これまでの常識を見直す必要があるかもしれない」

 宍倉さんらは、古文書に残されているよりさらに過去にさかのぼる地震を、房総半島に残された地形や地質データなどから明らかにしようとしている。東日本大震災の前に、過去の大地震の正体を暴いて危機が迫っていることを警告していたことから注目された、「古地震学」と呼ばれる手法だ。

●M8級発生は最大5%

 房総半島海岸に残された段々状の地形は、一段一段が過去の大地震の時に隆起して生じた。それぞれの段に含まれる貝の化石から、地震の起きた年代を調べる。その年代が、これまで考えられてきたものと異なっている場所が見つかったのだ。

 首都を襲うM8級地震の研究は、ここ10年ほどで進んだ。宍倉さんらの最近の研究で、大正関東地震、元禄関東地震とは震源域が違う、別のタイプのM8級が起きる可能性があることもわかってきた。たとえば元禄関東地震ではずれ動いたが、大正関東地震では動かなかった領域が単独で滑って動くなど、これまで知られていない地震だ。

 M8級について研究が進むにつれて、地震の起こり方に多様性がある可能性がわかり、以前よりむしろ輪郭がぼやけて見え始めた段階と言える。

 ただし、宍倉さんを含め多くの地震学者は次のM8級が切迫しているとまでは考えていない。政府の地震調査研究推進本部(地震本部)の予測では、大正関東地震級の発生確率は今後30年以内にほぼ0~5%、元禄関東地震級以上はほぼ0%としている。未知のタイプのM8級については、地震本部は「地震の多様性について評価は十分にはできていない」とし、古地震学での研究やGPSでひずみの状況を調べることが重要だという。

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