メディアが「日本出身」という文言を使うのには、理由がある。モンゴル出身の旭天鵬(現大島親方)が、日本国籍取得後の2012年夏場所に優勝を達成しているからだ。そこで「日本出身」という耳慣れない表現となった。
しかし、そんな言い回しまで使って琴奨菊の初優勝を特別視するのは、旭天鵬をはじめとする外国出身力士らへの敬意に欠けるのではないか。違和感の理由はここにあった。
例えば多様な国籍の人が働いている日系の大企業で、大型案件をまとめた日本出身の社員の成果が「日本出身社員が10年ぶりに大型案件受注」と一斉メールされるようなものである。
同志社大学の太田肇教授(61)も、「日本出身」表現への違和感をツイッター投稿で述べた一人だ。太田教授はこう話している。
「ファンの方が日本出身力士の活躍を喜ぶのはまだいい。誰をひいきするかは自由ですから」
場所でも、日本人力士への声援は大きい。筆者は両国国技館で、日本人力士への声援が外国人力士へのそれを上回るのを聞いている。雲泥の差、であることもしばしばだ。
だが一方で近年の相撲界は、グローバル化が進んでおり、日本相撲協会の八角理事長も「出身地に関係なく、全力士が頑張っていくことが大事」とコメントしている。いま、力士は国籍に関係なく相撲文化を支えており、相撲ファンも多様化を概ね肯定的に捉えている。
「そんななか、メディアが外国人力士を別扱いする意義がどこにあるのか。日本出身力士とモンゴル出身力士の間に、身体能力で明確な差があるわけでもない。国際基準からかけ離れている。NHKをはじめとした報道の責任は重い」(太田教授)
※AERA 2016年2月8日号より抜粋
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