「女性は仕事より、家事や育児に専念すべきだ」「夫の収入があるのだから、夫を支えるべきだ」といった性別役割分業の意識を部下に押し付ける「マタハラ上司」によって、特に非正規雇用の女性たちが、雇い止めや「育休切り」などの被害に遭う事例が後を絶たないという実態は、広く知られるようになった。

 加えて、ダイバーシティ・コンサルタントの渥美由喜(なおき)さんは、「マタハラ上司」と対極のように見える「スポイル上司」の問題を指摘する。

「夫や子どもがいる女性には業務の負担を軽くしてあげよう」「子育て中に責任ある仕事を任せるのは酷だ」といった「間違った配慮」によって、女性をマミートラックに乗せて甘やかし、昇進・昇格ややりがいを阻害してしまう。悪意がなく、ハラスメントの自覚がない分、マタハラ上司よりたちが悪いとも言える。こうしたスポイル上司のもとでは、時短勤務などの両立支援制度も両刃(もろは)の剣となる恐れがある。

 中小企業では一人の戦力を無駄にすると組織が回らなくなるが、育休などの制度が充実していて代替人員もいる大手企業ほどスポイルが起きやすい。「女性が働きやすい会社」を標榜(ひょうぼう)していても、妊娠・出産したら、ママ社員ばかりを集めた部署などにコース変更する「慣習」があるような企業では、たとえ雇用が安定していたとしても、マミートラックに乗せる、という形でのマタハラ被害に遭う可能性があるのだ。

「マタハラは解雇やいじめに限らない。マミートラックや“産ませない空気”“子育てしながら働きづらい空気”もひっくるめて、マタハラだと考えています」(小酒部さん)

AERA 2015年11月16日号より抜粋

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