保育をめぐる新たな問題として、保育園建設がある。中野区ではこんな問題が噴出した。
40年前、東京都中野区南台の住宅地に子どもの居場所を求める運動を起こしたのは、子育て真っ最中の母親たちだった。近所を訪問して署名を集め、区議会や区長に直訴。その努力が実を結び、児童館が併設された「みなみ公園」が誕生した。
「有志で掃除をして、緑や景観を大切に守ってきた。子どもの声が聞こえない日は寂しいくらい。お年寄りの憩いの場にもなっています」と、運動の中心となった女性は話す。80代になった今、この公園に保育園が建つことに反対している。
今年6月、公園の一部が閉鎖され、3階建ての園舎の工事が始まった。来年4月に100人規模の認可私立保育所が開設予定だ。区は昨年5月から説明会を開き、いずれは児童館を移転して公園を再び拡張すると説明してきたが、すべての住民の理解は得られていない。
「保育園が必要なのはわかるが、なぜここなのか。大切な公園をつぶさないでほしいという願いは聞き入れてもらえないのか」
中野区の今年4月の待機児童数は241人。区子ども教育部の濱口求副参事はこう話す。
「待機児童が相当数いる中、施設を提供するのは行政の責務。運営が始まってからも近隣に理解を求めていきたい」
もともと住民は保育園に反対だったわけではなく、公園を維持したいだけだった。しかし「待機児童対策」を錦の御旗に計画は進んだ。事業者による着工の挨拶文には「工事妨害があった場合、法的措置もありうる」という記述もあった。挫折感や無力感を覚え、頑なにならざるを得なかった、と女性は言う。
「開園しても円満にやっていけるとは思えない。保育園も地域の協力を期待しないそうです。子どもには寛大であろうとしてきたけど、うるさければ注意する。高齢で法的手段を取る気力なんてありませんから」
「中野区の待機児童を減らす会」で認可保育所の増設を求める活動をしている母親でさえ、住民の声に一定の理解を示す。
「新設は歓迎ですが、なぜこの公園をなくすのか、という言い分もわかる。かつて公園を求めて住民運動をしたときは、今の私たちと同じ切実な思いがあったのではないでしょうか。地域に受け入れてもらえない状態での開設には不安が残ります」
※AERA 2014年11月17日号より抜粋