「私立の特に中等部では、進学実績を上げるためにどんどん授業を進めなくてはいけないから、予備校講師経験のある先生を雇うケースが多い。彼らは教え手としては優秀だと思うが、教育そのものを本格的にやった経験がない。すべての先生がそうではないが、思春期で扱いが難しい年代の心理的な成長にかんがみた教育はなされていないのが実情では」
それなのに、「地元の公立以外の選択肢」に心が揺らぐのは、「公立の教育に不満がある」ということに加え、働く母たちに「自分が働いていることで子どもの教育機会を奪っているのではないか」という後ろめたさがあるからだ。
『母親の貫禄』の著者で受験教育「三石メソード」を主宰する三石由起子さんは、現実を突きつける。
「私立と国立の小学校に通う子は全体の1%で、そこに通わせている母親はほとんど専業主婦でしょう。働いているお母さんでは難しいというのが実情です。自分できちんと教育したければ勤めを辞めるか、勤めが大事なら、お金を払って塾でカバーするか。幼小期の子どもの教育に力を注ぎたければ、二つにひとつというのがセオリーです」
●フルタイムでも受験
小学校受験をし、都内で国立の小学校に第3子である娘を通わせている40代の女性会社員は、地元の公立小に通った兄たちの時よりも、家庭の負担が大きいと感じる。
「授業は教科書通りではなさそうだし、子ども同士の話し合いに時間を費やす。基礎学習は完全にご自宅でという感じ。漢字や計算の問題を作ってやらせたりと毎日手間がかかる」
受験をすれば、受験時だけでなく、入学後も親の手間ひまはかかるようだ。だが、この娘のクラスでは32人中6人の母親がフルタイムで働く。働く母の中にも、時間をやりくりし、驚異的な努力で子どもの受験を乗り切る人がいる。だからこそ、地元公立に通わせる親のジレンマも増える。
不安を抱える親たちに、前出の増田さんはこう助言する。
「教科書の見た目は薄そうでも、ゆとり世代のものと比べると、内容はほぼ3割増し。算数などは教える量が増えたため、習熟させる時間を取れていないことに、教師自身も悩んでいる。先生にちゃんと教えてほしいと要求してください」
増田さんが教員時代、忙しくて時間がない働く母たちに勧めたのは、リビング学習をさせること。家事の合間に子どもの勉強を見られるからだ。
「子どもに相手にしてもらえるのはせいぜい中学1年まで。貴重な時間だから、焦らず子育てを楽しんで」
公立か私立かで悩むよりも、もっと大事なことがあるのだ。
●「公立」の不満
【中学校】内申点をどうつけられるか不安なので、学校側がまずいことをしても誰も意見しない(42歳女性/千葉県)
【小学校】校長先生の異動で学校の方針が変わる(44歳女性/東京都)
【小学校】子どもの質も親の質もばらつきがあるため、学級崩壊やトラブルが多い (39歳女性/東京都)
【小学校】教科書が薄く、特に読み書き計算が自分の時代とはまるで違い、演習量が少ない (50歳女性/神奈川県)
【小学校】通知表などの学力評価がわかりにくく、自分の子どもの実力がどの程度なのか不明(53歳女性/東京都)
【中学校】先生が行事で出来栄えや自分のクラスの順位を気にしすぎて、肝心の授業に身が入らない (50歳女性/東京都)
●「公立」の満足
【小学校】地元の中学校で部活に打ち込んで高校を受験しよう、という子が意外と多く、私立中学受験組よりも意欲が高い子が多かった(50歳女性/東京都)
【小学校】近くの学校なので、子どもに通学ストレスがない(40歳女性/東京都)
【中学校】6.3.3の歴史を重んじたい。15歳で自分で進路を決め、高校受験に立ち向かい、大学受験を突破する力や自立心を養うことは将来のベースになる (46歳女性/東京都)
【中学校】私立受験組の中には「私は私立だからあなたたちとは違う」と、差別的な発言をする子どもも。公立だから学べることもある (44歳女性/神奈川県)
【小学校】中学以降は私立を想定しているので、今のうちに多様な子どもたちの間でもまれてたくましくなることは良い。あまり小さいうちから同質性の高い環境に置くのは良くない (45歳女性/東京都)