だが、夫が気づかないだけで、妻は長年にわたって夫に怨念をためこんでしまう。それが突発的な家出を引き起こす要因にもなりかねない。
「結婚してから長い間、夫のモラハラに悩み、苦しんできました。突発的に家を出たのは、口が達者な夫に、反論されたり、丸め込まれたりするという危機を感じたからです」
と、とつとつとした口調で語るのは、渡辺直子さん(62歳・仮名)。渡辺さんは、二つ年上の会社員の夫が定年退職をした時から、介護の仕事に就くようになる。夫の定年と同時に別れたかったが、手に職がなかった。老後に一人で生きていくことを想定した渡辺さんは、介護施設で働きながら、介護福祉士の資格を取得しようとした。定年後、夫が一日中家にいるのが耐えられなかったこともある。
「若い頃から、私が夫にしてもらいたいことを言っても、夫は私を無視したり、時には『バカだな』と蔑んだりしました。子供のことで相談すると『そんなことはお前がやっておけばいいんだよ』と頭ごなしに怒鳴られます。35年以上続いていました。もう限界です」
夫の無言のモラハラにも耐えられなかった。今でも覚えているのは、小学生だった息子の運動会のことだ。
「夫に息子の運動会に出席してくださいとお願いしたんです。ところが返事がない。てっきり欠席と思っていたら、前日に『明日の運動会は何時だ、どこに行けばいいんだ』って。無視しておいて、直前に言いだすなんてあんまりです」
また一番酷いモラハラを感じたのは、息子の進学のことだという。
「相談しても無視するので、私が一人で重責を感じていたのです。ところが夫は息子と二人だけで話し合って決めていたんです。私なんか、どうでもいいのです」
夫からの長年のモラハラに耐えながら、性格のきつい義理の母親を看取った。その後で「夫と同じ墓に入りたくない」と離婚を決意したという。そして遂に突発的な家出となったのは、お盆休みの前日だった。