帯津:この話はよくわかりますね。私は認知症は老化現象で自然の摂理なので、受け入れるしかないと思っているのですが、できるだけそうなるのを遅らせたい。そういう予防に必要なのは、人とのコミュニケーションと喜びだと思うんですね。
ですから、そのためには憎からず思う人と酒を飲んで、ハグをして別れる。これが一番いいと思うんです。
大井:まさにハグはいい接触ですよね。
私も生老病死をいかにうまく受け入れるかが大事だと思います。必ず我々はおとろえて死にますから、そのおとろえをどう受け入れるかです。アンチ・エイジングではなくてナイス・エイジングというのはいい考え方だと思いますね。
帯津:認知症もアンチ認知症ではなくて、ナイス認知症という考え方があるかもしれないですね。
大井:そうなんです。認知能力をできる限り最後まで保持していこうということです。最近は認知症の検査もしっかり行われるので、軽い認知障害があるという軽度認知障害(MCI)の人たちが見つかります。このMCIの人たちの経過を見ていくと、約5年後には2割の人が本当の認知症に進行します。5割の人は現状維持で、そして3割の人は回復するんですね。
帯津:回復もあるんですか。
大井:認知症の予防ということでひとつ例を挙げると、ノルディックウォークというのがいいんですよ。
帯津:スキーのストック(杖)を両手で持って歩くやつですか。
大井:そうです。もともとスキーのオフシーズンに始まったんですが、まずいいのはストックを通じて大地とのつながりを感じるところです。しかも大股に歩くのがいい。認知症の人は歩く速度が遅くなります。それは歩幅が狭くなるからなんですね。歩幅の狭さと脳の前頭葉の萎縮は関係があるようなんです。
それとやはり不安が関係するんです。認知能力が少し落ちた人が配偶者を亡くしたり、手術をしたりして不安が高まると、ガクンと認知能力が落ちるということがよくあります。