歩くとき、普通は視線が10度か20度下向きになるんです。ノルディックウォークは姿勢がよくなって、逆に10度か20度上向きになって歩くんですね。そうすると世界が広く見えるようになる。ストックによる大地とのつながりがあるという安心感とともに、視界が広くなると不安をなくすのにプラスに働くんです。また、仲間と一緒に歩くので、人とのつながりもできる。
帯津:先日、講演で茨城県つくば市に行かなければならなくなって、埼玉・大宮からの行き方を教えてもらったんですが、知らない電車を乗り継ぐため、いくら聞いてもよくわからない。やはり、少し認知能力が落ちてきているのかもしれないと思いました。
そういう苦手なことを無理すると不安を助長して、いいことはないですよね。結局、道順に詳しい人と大宮で待ち合わせて行くことにしました。
大井:確かに東京・渋谷の地下なんか、よくわからなくて嫌な感じですよね。
帯津:よくわからないことは無理せずに、避けて通るということもナイス認知症には必要かもしれない。
大井:その通りですね。私は多くの認知症の方とつきあってきて、認知症には悲しい側面だけではなく、いい側面もあると思っているんです。
その一つは、がんになった場合です。いまや2人に1人ががんにかかり、3人に1人がそれで死ぬ時代です。都立松沢病院での消化管がんの10年間のケースを見ていると、認知症の方はがんになってもあまり不快症状を感じないんですね。認知症になってからがんが発見されるのは9割以上が検診などでひどい貧血が見つかったり、吐血や下血などがあったりするからです。がんの不快な症状を自分で訴えることで見つかるわけではないんです。
さらに、がんの痛みについて普通は8割以上の患者さんが訴えるのに、認知症の人では2割ぐらいしか痛みを訴えない。鎮痛剤にしても普通はステージが進むとモルヒネなど麻薬系を4割の人が必要になるのに、認知症の人で必要になるのは2%だけなんです。だから、認知症になってからがんで死ぬというのはいいなと思うんですよ。