老化に身を任せながら、よりよく老いていこうというナイス・エイジングにとって認知症は大きなテーマです。今回は特別編として、帯津良一先生と、終末期医療に携わる大井玄・東京大学名誉教授との対談を紹介しましょう。二人は都立小石川高校の同期生で、大学も同じ気心の知れた間柄。和気あいあいとしたやりとりのなかに、認知症とどうつきあっていくべきかのヒントがあります。
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帯津:大井さんは現在も臨床医の立場から終末期医療に携わり、認知症の患者さんと接することも多いです。認知症に対してはどういう考えを持っていますか。
大井:最近は「人生100年」といいますが、そうなったのはホモサピエンスの長い歴史のなかでみると一瞬の出来事で、異常な事態なんですね。日本で平均寿命が50歳を超えたのは戦後になってからです。認知症の発症は60歳代後半では1%、70歳代前半では数%、後半では1割、80歳代の前半は2割、後半で4割です。90歳代前半になると6割、後半には8割になります。
帯津:なるほど、「人生50年」だった頃は認知症はあまり問題にならなかったわけですね。90歳を超えると、大多数が認知症になってしまう。
大井:そうなんです。ですから少なくとも90歳以降では、認知症は病気とは言えない。デンマークなどでは1950年代から、認知症を病気ではなくてディスアビリティー、つまり加齢に伴う障害だととらえるようになっています。その考えに私も賛成ですね。
帯津:私も認知症は病気というより、老化と考えたほうがいいと思っています。ですから、臓器のレベルで治療しようとする従来の医学では対応できない。がんと同様に人間をまるごととらえるホリスティック医学の考え方が必要だと思っているんです。
大井:沖縄の佐敷村(現・南城市)というところで、琉球大学医学部精神科(当時)の真喜屋浩先生が75年頃に、65歳以上の全老人708人を対象に認知症の調査をしたんです。認知症の有病率は4%でした。これは東京で行った調査と変わりません。ところが佐敷村では、怒りっぽくなる、うつになる、幻覚が出る、妄想を持つといった認知症の周辺症状が1人を除いて見られなかったんです。