行きの飛行機でクリント・イーストウッド主演の「運び屋」を見た。麻薬を運ぶ90歳の男の実話を基にした映画。チンピラとイーストウッドの交流が印象的だった。チンピラは四六時中緊張し、すぐに銃を突きつけては「オレを誰だと思ってる!?」と怒鳴る。そいつにイーストウッドが「もっとリラックスして生きろ」と言うシーンがあった。
そのチンピラが日本と重なったのだった。緊張感のあまり簡単にパニックに陥り、コンプレックスは異様に強いが、「男」としての根拠なき自信で他者を制圧し、筋の通らないことを強引に通す。今の日本が、小物のチンピラとたまらなく重なった。
私たちに必要なのは、リラックスなのかもしれない。34歳の女性が首相になれる国は、やはり国全体が落ち着いているのだ。平常心で理性的に生きられる空気のもとに、男女平等社会は成熟するのかもしれない。だからまずは一息深呼吸。もうこれ以上、逃げたい気持ちで生きるのは嫌だ。
※週刊朝日 2020年1月31日号