作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回はフィンランドで感じたことについて。
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気がつくとカルロス・ゴーンのことを考える日々だ。宗教人類学者の山形孝夫先生によれば、レバノンは「逃れの国」なのだそうだ。太古から、紛争などで追われる人々は、レバノンを目指してきた。
レバノンが「逃れの国」ならば、日本は何だろう。ゴーンが気になるのは、私自身が逃げたい気分になっているからだと思う。あれだけの事故が起きたのに原発を再稼働するような政治から。都合の悪い文書を捨てるような政府から。ジェンダーギャップ121位の国から。
ゴーンと同じ東京地検特捜部に逮捕された佐藤優さんによれば、警察に逮捕された私とは、特捜部組は扱いが違うという。もちろん警察のほうが格下。だから多分ゴーンは時計もない地下牢に丸一日拘束されたり、「1本、2本」と本数で数えられるような経験はしていない(人扱いされないのだ)。それでも100日以上の拘束や、保釈後に妻と会えないような状況は、国際的にみれば異常だ。ゴーンの逃亡は、私に教えてくれた。逃亡を成功させるには、お金と仲間と希望が必要だ。2千万円不足の老後資金のためではなく、いつでも逃げられるように貯金をしようという気持ちにもなった。
というわけで、今、フィンランドへ小さな逃亡中。34歳の女性首相が登場する国に行きたく、着いてすぐにサンナ・マリン首相の職場、国会議事堂周辺を歩いた。日本の国会前のように警察がうろうろしておらず、なんとなくリラックスしている。
北欧を旅すると感じることだが、ここは本当にリラックスしている。平日だけれどスーツ姿の男性は少なく(そもそも日本人はスーツを着すぎだ。職業に関係なく男性の制服だと思っている節がある)、ぶつかってきた方がチッと舌打ちするような空気はない。国会議事堂前にある図書館に入ったのだが、広々としたキッズスペースがあった。「うるさい」と怖い顔をするような大人はいなく、誰もが優しい空気の中で息している。