ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は「現地調査」について。
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宮古島へ行った。目的は今年の春に連載の終わった長編小説の追加取材。主人公の刑事ふたりが宮古島に行って、埋められた死体を探す場面を書いたから。
地図と画像があれば、ある程度の情景は想像できるし、それらしく書くことはできるが、やはり現地には、そこに立ってみなければ分からないものが必ずある。それがディテールであり、小説のリアリティーにつながるのだろう。
追加取材には編集者がふたり、連載時の担当者と単行本の担当者がついてくれた。ありがたいことだ。本来はわたしひとりでするべき取材なのに。
夕方、宮古空港に降り立った。空港ビルは屋根に赤瓦を葺いた沖縄の民家風で、なかなかに趣がある。空港ターミナルで東京から来た編集者と合流し、平良港近くのホテルへ。
夜の食事は、編集者が予約してくれた、しゃぶしゃぶ料理店に行った。主役は宮古牛とアグー豚だったから、わたしはもっぱら牛を食い、泡盛のシークァーサー割りを飲んで、しかるのち、近くのラウンジへ。
そこは平日にもかかわらず、満席だった。やたらうるさい。隣のボックスに七、八人の若い客がいて、次々に泡盛の一気飲みをしている。いま宮古島はリゾートホテルの建設ラッシュで、県外から多くの建設労働者が来ていることを実感した。慢性的な人手不足の『宮古島バブル』により、彼らの日当は二万円とも三万円とも聞く。
隣についたのは、こんがり日灼けした東京の子だった。春から秋、宮古の海でダイビングをして、冬になると家に帰るといい、ラウンジのホステス十二人のほとんどは、関東の出身だという。「地元の子はおらんの」「いませんね。西は岡山と博多の子です」全員が賄いつきの寮住まいで、店までバスで送迎してくれるといった。
隣があまりに騒がしいので早々にラウンジを出た。まだ寝るには早いから、あてもなく路地を歩いて、赤いネオンのスナックに入った。先客がふたりに、ママがふたり。どちらもママに見えたのは、たぶん、わたしより年上だから。