メロンパンのような色白の、厚化粧のママが来た。「お飲みものは」
「泡盛。水割りで」
ママは水割りを作りながら、
「どちらから来ました」
「こちらのふたりは東京で、おれは大阪です」
「観光ですか」
「現地調査です」
「不動産関係?」
「いや、この島で死体を埋めるとこを探してますねん。どこか適当なとこはないですか」
「…………」返事がない。
「保良泉(ボラガー)とか平瀬尾神崎あたりはどうですかね」
「…………」ママ、無言。
「嘘やない。ほんまに探してるんです」
「歌、うたいますか」
「ああ、デュエットしましょか」
いうと、ママはそそくさと立ってリモコンをとってきた。こちらに訊きもしないで『居酒屋』を入れ、マイクを差し出した──。
翌日は編集者がレンタカーを運転してくれて島を一周した。保良泉は想像していた情景どおりだったが、平瀬尾神崎は死体を埋めるはずの場所が採石場になっていた。これだから現地取材は欠かせない。採石場の土砂が積もっているところは土が柔らかく、掘るのが楽そうだった。わたしは満足して追加取材を終え、泡盛の十年ものの古酒を土産に買って、無事、宮古島をあとにした。
※週刊朝日 2019年10月4日号