東海林:鯨が嫌いと言う人のイメージは、硬い竜田揚げと大和煮ですよね。

小泉:ええ。それでも、昭和25年から30年代まで、戦後の日本経済を押し上げたあの時代。日本人は動物性たんぱく質の多くを鯨肉から取っていたんです。

東海林:われわれの世代には、懐かしい味です。新宿駅西口の思い出横丁にあった鯨カツ屋には、学生のときから30年近く通っていました。

 90年当時、週刊朝日の「あれも食いたい これも食いたい」の「のいる鯨カツ屋」の回で、鯨肉が登場しています。厚さ4ミリの鯨肉に、せんべいのように硬い衣がついた鯨カツ。まずくはないが、特別おいしいというわけでもなく、懐かしい味。ときどき、急に鯨カツが懐かしくなって、この店に行きました。

 いまは、鯨肉を見かけなくなりましたね。お店で鯨料理を食べようと思っても高いでしょう。

小泉:日本は、30年にわたり、調査捕鯨しかできなかったから、鯨肉の流通量が少ないんです。

 調査捕鯨は、頭数がどのくらい増えているのかを調べるものです。鯨の管理を話し合う国際捕鯨委員会(IWC)は、鯨を廃棄してはいけないと定めていますから、捕獲したら肉をすぐに冷凍して店に卸すんです。とはいえ、絶対量が足りないから値段も上がる。

東海林:デパートの物産展で毎年、鯨料理の店が出店されていました。「尾の身」が一番高くて、消しゴムくらいの大きさの冷凍切り身が四つほどで6千円です。こんなに高くては、日本人の間で、「鯨を食べたい」という声が大きくなりません。

■クジラカレーは子どもに大人気

小泉:確かに高い。これでは若い人たちは、鯨より焼き肉や鶏の唐揚げ、となりますよね。

東海林:ハンバーグとか。

小泉:この鯨のステーキ召し上がってください。お店の名物です。

東海林:軟らかくておいしいですね。鯨は、魚とも違う、動物の獣臭さもない。

小泉:捕ってすぐに冷凍してしまうから、すごい新鮮なんです。

 学校給食で鯨肉が提供されている地域があります。調理法もずいぶんと研究されましたから、軟らかくて臭みのないクジラカレーは、子どもに大人気です。

次のページ