東海林:日本人は、縄文時代から鯨を食べていたのですよね。

小泉:ええ、遺跡や貝塚からは、たくさんの鯨類の骨や鯨の皮を剥ぐために使ったと思われる石器も出土しています。『古事記』には、「久治良(くじら)」という記述がありますし、『万葉集』では、柿本人麻呂が「鯨魚(いさな)」として和歌に詠んでいます。

東海林:日本人は、鯨の肉から皮まで、あらゆる部位を食べますよね。

小泉:残った皮や骨、はてはヒゲまでも加工して、日用品に採り入れてきました。骨で作ったかんざしや彫り物、橋まであるのですから。

 日本人は、鯨に畏敬(いけい)の念を持って、その命をいただいてきました。鯨に戒名をつけ、供養塚や位牌(いはい)まで作っています。

東海林:「捕鯨」の「捕」は、手偏を用いた漢字を使います。同じ哺乳類でも、「捕鹿」「捕牛」とは言いません。何となく使っていますが、特別な響きがあって、日本人が鯨に抱く愛情が伝わってくるようです。

 今日はおいしい鯨料理をたくさんいただきました。小泉さんの「鯨肉ベスト5」を教えてください。

小泉:「さえずり」「鹿の子」「本皮」「尾の身」「畝須」ですね。皮は脂肪の層で、コクがあります。

東海林:だいたい一緒ですが、ぼくは「尾の身」と「鹿の子」を入れ替えます。「尾の身」は大珍味です。

小泉:実は鯨肉は、おいしいうえに、すごいパワーを持っているんです。バレニンという筋肉から抽出できる成分は、認知症予防や抗疲労効果のある成分として注目されているのです。農林水産省はホームページで、「大海原を泳ぎ続ける鯨のスタミナは、体内に大量に含まれているアミノ酸物質『バレニン』に秘密があると考えられています」と紹介しています。製薬会社からも、サプリメントとして販売されています。

東海林:鯨の肉を食べると、バレニンのパワーを摂取できるんですね。

小泉:ええ。明日は、元気になっていますよ。

(構成/本誌・永井貴子)

週刊朝日  2019年9月6日号