しかし、60歳を過ぎたころから、「これ、面倒くさいな」と思うようになった。なぜこんな思いまでして付き合うのだろう。残りの人生の時間を考えると無駄なのではないか、と。
友人を「断捨離」した今、面倒な人間関係に煩わされることもなく、人生が軽やかになったという。
「人は変わる。でも自分が変わることのほうが大きいと思います。70も過ぎれば自己主張もしたくなる。我慢して生きることはないと気づきました。たぶん会社員をやっていたら、そんなに簡単には切れなかった。フリーの身だからこそできたと思います」
漫画誌「ビッグコミックオリジナル」で長期連載中の「黄昏流星群」でシニアの人生の機微を描き続ける漫画家の弘兼憲史さん(71)は、著書『弘兼流 60歳からの手ぶら人生』(海竜社)の中で、こう述べている。
「友人が多いということは、それだけ、友人との付き合いに時間をさかれるということでもあります。(中略)人生の『結』に突入した60歳からは、信頼できる友人がほんの少しいればいい」
弘兼さんが勧めるのは、体が元気なうちに身の回りのものを整理する「老前整理」だ。整理するのは荷物だけでなく「友人」も含み、自身も始めたという。
95歳で今も執筆を続ける、お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古さんも、著書『50代から始める知的生活術 「人生二毛作」の生き方』(だいわ文庫)で、高齢者に向けた講演会でのこんな話を紹介している。
「若いときの友人関係は、もう賞味期間が切れています。賞味期間の切れたものは、捨てて、買い換えないといけないのです」
「友を捨てる」ことについて、こう触れている。
「捨てるというのは少々乱暴な言い方ですが、現実に目をさましてもらうために、こういう言い方をしたのです。要は、かつての関係に執着しないということです。買い換えるというのは、新しい友だちをつくることです」
古い友達を整理して新しい友達を作ることは、友人関係という「湖」の水を入れ替えて、きれいにするイメージなのだろう。
弘兼さんが「老前整理」として勧める「年賀状をやめる」を実践して2年、という人がいる。元銀行員で、久留米大学教授の塚崎公義さん(62)は、還暦を迎えた日に年賀状をやめると決心した。
「年賀状を出す理由は、あいさつ・近況報告・連絡先の交換・義理の四つ。50も過ぎると近況はほとんど変わらない。次に住所変更の連絡をするとすれば、老人ホームに入ったときぐらい(笑)。年賀状は互いに『来るから出す』だけです」