大江さんも言う。

「60になったら、自由の翼を手に入れたんです。どこへでも、行きたいところに、ゆけばよいのです」

 会社経営者の恭子さん(仮名・61歳)は、3年前から決めていた。それは、「自分の還暦の誕生会には、これから付き合いたい人しか招かない」

 人材紹介業という仕事柄、仕事関係の友人も多く、「招待客」は想像していたよりも多くなった。結局、仕事とプライベートに分けて、2度開催。招いた人が夫婦でやってくるなど、トータル出席者は150人強となったが、これらは全員「これからもずっと付き合いたい人」なのだという。一方、コアな友人は固定している。趣味の歌舞伎やオペラ鑑賞、コンサートに行く友人が5、6人、旅行や食べ歩きフレンド7、8人。仕事の相談ができる経営者の友2、3人だ。食事を楽しむのも、心許せる友とだけ。そして今は、

「90近い母親との時間を優先しています」

 小さいころから、他人にこびず、比べず「人は人」と、自分を持って生きてきた。しかし経営者となってから、いろんな人がいろんな思いを持って近づいてくるのが気になるようになった。

 そんな人たちを「60になるまでに切る」と決めた。40代で、「我慢して付き合うのはもうやめる」と、50代から「友人リストラ」を開始。今は、好きな人としか付き合っていない。

「還暦を過ぎたら、友人も仕事も選ぶ必要があると思っています。今私が親しくしている友人は依存もしないし、皆自立しています。人のことを悪く言わなければ、愚痴も言わない。彼女たちとの時間が、すごく楽しい」

 筑波大学の精神科医・高橋晶さんは、「友人を捨てる」ことについてこう話す。

「何かを捨てて何かを得るとか、人間が正直に生きるということは、いろいろなしがらみからいったん離れて、自分がもともとしたかったことや、自分を見つめ直す作業なのです。人生の折り返し地点にいるということに気づけた人は、こころの断捨離のように、自分に不必要なモノに気づけるのでしょう」

 友人を「あえて捨てる」ということが悪いことなのか、改めて聞いた。

「『友人を捨てる』ということはわがままではありませんよ。自分のこころの声に従って生きることも素敵です。時に家族からは疎まれることもありますが、家族も元気な笑顔のあなたの姿を見たら納得するかもしれませんね。こころには、重たいこころと自由なこころがあって、これまでは、子どものころのように、自由に悲しんだり、泣いたり、笑ったりできていたのに、いつしか重たくなってしまう。でもそんな重たさも、何かを捨てることによって、軽くなり大きな何かを得ることができるんですよ」

 とはいえ、準備ができていないのに無理に捨てるというのだけは避けたい。高橋さんも、こう強調する。

「基本的にはコミュニケーションは取るほうがいい。捨てることによって、時間は得られるかもしれないけれど、失うモノもあるかもしれないということ。それを含めてご自身で決意なさってください」

 友人を捨てることを、優先順位をつけ、大事な人を選んだと考えれば、残した(選んだ)人と過ごす人生がいとおしいものに思えてくる。還暦を機に、大事な友を見極めよう。人生はアッという間なのだ。

(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2019年8月16日‐23日合併号