西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「身軽になろう」。
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【ポイント】
(1)身軽に生きることができる「林住期」
(2)世俗の重荷を一旦、肩から下ろしてみよう
(3)家族を失う悲しさをプラスに転じよう
凜とした老い方をされている方、まさにナイス・エイジングを実践されている方に、私が敬愛してやまない宗教学者の山折哲雄さんがいます。88歳になられましたが、その凜とした姿は少しも変わりません。その山折さんが最近『「身軽」の哲学』(新潮選書)という本を出されました。
古代インドでは人生を4つの時期、四住期に区切る考え方がありました。四住期の1番目、「学生期(がくしょうき)」では勉学に励みます。次の「家住期(かじゅうき)」では家庭を持ち仕事をしてお金を稼ぎます。3番目の「林住期(りんじゅうき)」ではそれまでの世俗的な生活から身をひき、家を離れひとりになって自由な時間を楽しみます。この後、4番目の「遊行期(ゆぎょうき)」に進む人はまれです。この最終段階は聖人への道だからです。多くの人は林住期からまた世俗の世界に戻って一生を終えます。
山折さんは著書のなかで、この四住期のうちの林住期に着目。日本でも実践した人物として西行、親鸞、芭蕉、良寛をあげて、その生き方の「身軽」さを論じています。
林住期の身軽な生き方は魅力的ですね。まだ聖人ではないのですが、俗人でもない。中途半端なようですが、世俗の重荷を一旦、肩から下ろしてみるというのが、ナイス・エイジングの方法として悪くないと思うのです。そこから見えてくる新たな人生が、必ずあるはずです。
私は特に西行の生き方に惹かれます。武門の家に生まれ、北面の武士として仕えながら、23歳で妻子を捨てて出家。仏道とともに和歌の道にも励み、歌人として名を残しました。その間、奥州、四国など全国を行脚し、鳥羽上皇、崇徳天皇、平清盛、源頼朝といった権力者とも交流を深めました。さらに待賢門院(藤原璋子)、堀河局(待賢門院堀河)といった多くの女人を愛したというのですから粋ですね。羨ましいばかりの身軽さです。