そして有名な「願わくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ」という歌を残し、73歳で歌の通りに幽明界(ゆうめいさかい)を異(こと)にしたのです。見事な死です。その生と死を統合した逝き方を見ると、西行はその身軽さゆえに、すでに聖人の域に達していたのではないかとも思えるのです。
私は72歳のときに妻を亡くし、ひとりになりました。妻には苦労をかけたままで逝かせてしまい不憫に思いましたが、また来世で会えると思うと、それほど悲しくはありません。
家族を失うのは、悲しいことであるのに間違いありませんが、身軽になる機会でもあります。そういうときに、プラスの生き方を見出すのもナイス・エイジングではないでしょうか。
少し前ですが、ある独身女性から「先生! おひとりじゃ、寂しいでしょう。私と結婚しない?」と、冗談めかしているものの本気度の高そうな申し出を受けました。ありがたい限りですが、この歳から身軽さを失いたくないと、丁重にお断りしました。
このまま、身軽なままで、西行のように逝きたいものです。
※週刊朝日 2019年7月26日号