ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は「積ん読『トリセツ』やっぱり読もう」。
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晩飯のあと、いつものようにテレビの前で横になり、リモコンをがちゃがちゃしていると、キングコングの映画をやっていた。コングが軍用ヘリを叩き落として大暴れしている。
これ、見たことあるな──。そう思った。『キングコング』の続編の『キングコング なんとか島のなんとか』だろう。タイトルは忘れたが、ゴリラふうではないボノボふうのコングを憶えている。そのままぼんやり見ていたが、すぐに眠ってしまった。──ちなみに、わたしは年間百五十本から二百本の映画を見る。映画館で十数本、あとはレンタルDVDだが、おもしろいと思うものは五作に一作ほどしかなく、そのほかは早送りで見るか、もっとつまらないものは途中でやめる──。
そうして十日、月刊誌の連作短編をやっと書き終えて、ほんの少し暇になったわたしはレンタルビデオショップに行った。五本で千円。新作を四本選んだが、あとの一本が決まらない。そのとき、フッと思い出したのが『キングコング なんとか島』だった。わたしは旧作コーナーへ行き、DVDを借りて帰った。
晩飯のあと、いつものようにテレビの前で横になり、DVDを見ていると、よめはんがそばに来た。
「キングコングやんか」
「こないだ、テレビでやってたんを見損ねたから借りてきた。その前にもDVDで見たんやけどな」
「キングコングてかわいそうや。なにもわるいことしてへんのに捕まえられて見せ物にされて、高いビルに登って飛行機に撃たれるんやから」
「それは前作のキングコングやろ。このコングは強いから勝つんや」
そういうと、よめはんは横に座って見はじめたが、三十分ほどして、
「これ、見たことあるわ。この気味のわるいトカゲ」
「DVDでか」
「ちがう。映画館で見た」
「誰と行ったんや」
「また忘れてるわ。行ったやんか、橿原のシネコン。わたしは嫌やったのに連れてかれたんやで」