「無言だけど相手のことはわかっているというゴリラを観ていると、言葉を持った人間の悲哀というか、そんなことを考えてしまいます」
ゴリラもハミングをするのだそうだ。群れを卒業した若い雄ゴリラは寂しさを紛らわせようとハミングし、ジャングルでそれを聴いた山極さんが声をかけた。「お前も大変だな」
「ゴリラにも孤独があるんですね」。小川さんが呟いた。そうなのだ。寂しいのは人間だけじゃない……。
やせ我慢、律儀。懐かしさと優しさ。
雄ゴリラがハミングするのを思い浮かべると、♪今日も涙の 日が落ちる 日が落ちる♪と、日本一有名な、映画「男はつらいよ」の主題歌のメロディが浮かんだ。
「雄は雌に選ばれないといけないのね。だったら生まれ変われるとしても私は雌でいいかな」と小川さんが微笑んだ。
「元号が令和に変わって騒いでいるのは日本だけだ」と山極さんがボイスレターを寄せた。
「動物の世界は変わらない。人間は言葉で区切って違う時代のように考える。でもそれも魅力。人間は実際の自然とは違う世界や未来を想像する。僕らは物語の世界に生きている。それを創ってくれるのは(小川)洋子さん、あなたです」
小説同様、ラジオもそうだ。小川洋子さんの言葉に山極寿一さんがラストを締めた番組、「言葉の森 言葉の海~男もつらいよ」は平成最後の日曜夜に放送された。
※週刊朝日 2019年6月14日号