TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は「作家の小川洋子さんがゴリラに近づきたい理由は?」。
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「動物園は野生への窓口です。言葉の届かない場所にいってらっしゃい」
京大総長で40年間アフリカに通い続けているゴリラ研究の第一人者、山極寿一さんの計(はか)らいで、大好きな作家、小川洋子さんと京都市動物園に行った。小川さんは、TFMで「未来に残したい文学遺産」として文学作品を毎週一遍ずつ取り上げ、音楽とともに紹介している(「メロディアス ライブラリー」毎週日曜午前10時)。
上野動物園に次いで2番目に古い京都市動物園は、公園のように小ぶりで動物を間近に見ることができる。そこに、お父さんのモモタロウ(体重180キロ!)、お母さんのゲンキ、お兄ちゃんのゲンタロウ、そして昨年12月に生まれたばかりのキンタロウの、ゴリラの4人家族がすんでいる。
『ゴリラの森、言葉の海』という対談集を山極さんと出したばかりの小川さんは、「言葉の届かない場所へゴリラを案内人にして近づきたい」と、ゴリラについて調べ上げた色とりどりのメモを書いた大学ノートを抱えていた。
「私が毎日小説を書いているのは、言葉の届かない世界、言葉のなかった懐かしい場所へ行きたいから」
話しかけても父のモモタロウは背を向け無言のままだった。こっちを向いたと思ってもすぐ反(そ)らされる。
雄が黙って背中を見せるのは、家族を背負った彼が僕ら人間との間合いを測っているためだという。いかに家族を思いやり、守れるか。喧嘩になってもどこかで第三者の仲裁を待つ。「まあまあ、平和に行こうよ」
彼らは互いのプライドを保ち、無用ないざこざを避けるため、細やかな気遣いを持っている。
「ゴリラは人間と違って、思いついたことをそのままペラペラ喋らないんですね。考えて、考えて、でも動かない」。小川さんがこちらを振り向いた。