文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は、将来が不安だという読者からの相談です。
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Q:未来に、漠然とした不安を感じています。例えば年金制度の不確かさ、政治の不透明さ、何かと発言しづらい空気……。北朝鮮やアメリカなど国際情勢にも不安が募ります。でも、日々の生活に精いっぱいで、これからについて不安を感じつつも、流れに身を任せてしまっています。不安感を軽減させるにはどうしたらいいでしょうか。これからの時代、何を判断基準に、どう生きていけばいいのでしょうか。
A:その不安な気持ちは、よく分かります。今、日本も含め世界で「指導者」と呼ばれる人たちが、自国を危ない方向に引っ張っていこうとしています。
マネーゲームによって一部の富裕層がもうかる一方で、貧困の連鎖にあえぐ人たちがおり、格差がどんどん広がっています。さらに世界中に移民排斥を訴えて支持を獲得する政党が存在し、一国主義的な考えがアメリカだけでなく、ヨーロッパ各地にも広がり始め、EUが崩壊しつつある。ロシアの侵略的な動きも心配だし、中国も然り。国連が中心となってきた世界の平和維持にも、日本の平和主義にも、不穏な空気が漂っています。恐らく、ドイツでナチズムが台頭した1930年代前後にも似たような空気があり、不安を感じる国民がたくさんいたのだと思うのです。ヒトラーの独裁を許した原因は、ドイツ国民のそういう不安だったのでしょう。
今、私が非常に危ういと感じるのは、現状を無批判に受け入れて無意識のうちに大勢に同化し、全体の一部になることによって安心感を得、不安や疑問から逃れようとする人たちが多くなってきたことです。
あなたが抱える不安はとても大事です。不安から逃れようとしないでください。日々の生活に追われていても、時には立ち止まって、本当に幸せな社会はどんな姿かを考えてほしいのです。不安な時代を乗り越えるには、不安を直視して考える人が必要です。威勢のいい言葉や大きな力に寄りかかることで、実体のない安心感を抱く人がこのまま増えると、ついには悲劇的な事態に至るかもしれません。ハーメルンの笛吹き男について行った子どもたちのように。