SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「訳あり物件」。
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物件探しをしていた。
高い家賃を払い続けるより、昭和君が学校に上がるのを機に貯金をはたいてでも家を買ってしまった方が得策ではないか。そう話し合って、中古物件の仲介業者を頼んだのである。
担当の飯島という青年が我々の希望に合致する物件を熱心に探してくれたが、予算が少ないと訳あり物件になりがちだという。
「ともかく何軒か回ってみましょう。そうすれば、私の言うことがおわかりいただけると思います」
飯島青年はこう言って、車を発進させたのだった。
一軒目は、薪ストーブのある豪邸であった。図面を見ると、間取りは十分。外観の写真も美しく、この値段でこんな家が手に入るのかとちょっとワクワクする。
しかし、車が現地に到着するまでもなく、安い理由がわかってしまった。宅地開発から取り残された鬱蒼とした森の奥に、その家だけがポツンと一軒建っているのである。
別荘だと思えば文句はないが、泥棒に入られて妻太郎が悲鳴を上げても、絶対、誰にも聞こえないだろう。
それは当然と言えば当然で、飯島青年によれば、オーディオ好きの家主が大音量でクラッシック音楽を聴くために、わざわざこんな場所に建てたのだそうだ。
「面白い家なんだけどなぁ」
「さすがに、ここで生活する自信はないわねぇ」
飯島青年は、黙って我々の反応をうかがっている。
二軒目は、写真で見る限り内装がとてもお洒落な家だ。居間の壁に一枚ガラスの大きな窓が嵌っていたり、吹き抜け天井に天然木の梁が渡してあったり……。
「たしかに、内装はステキなんですけどね……」
飯島青年が、含みのある言い方をする。
現地に到着すると、すぐさま彼の言葉の意味がわかった。その瀟洒な家は、急斜面にへばりつくように建っているのだ。しかも、家の裏手に土嚢が積んである。