「1個のブツブツは同じ場所に出つづけていますか?」

「はい」

 この時点で蕁麻疹の可能性はぐっと下がります。

 一般的に、蕁麻疹の皮疹である膨疹は24時間以内に消えます。例えば、おへその横に膨疹が出たとして、通常は数時間で消えます。蚊に刺されたあとのようなブツブツを全て、蕁麻疹だと誤解するのは患者さんだけではありません。皮膚科を専門としない医師から紹介された「蕁麻疹」に、しばしば薬による副作用である薬疹が含まれることもあります。

 さて、ようやく蕁麻疹と診断できました。ここで患者さんの二つ目の誤解に遭遇します。

「おかしいなぁ、特別な物を食べたわけではないんですよ」

 蕁麻疹=食べ物が原因と思っていませんか? それは違います。蕁麻疹のほとんどが原因不明です。カニやエビ、卵など有名ですが、有名なことと頻度が高いことは全く別です。

 食べ物が蕁麻疹の原因であるかどうかを判断する基準は、特定の食材を食べた後、数時間以内に症状が出現するかどうかです。いくつか例外はあるのですが、その食材を食べて30分から1時間でかゆくなります。

 頻度が少ないとはいえ、本当に食べ物が蕁麻疹の原因の場合もあります。なかでも、そばを食べた後に体に蕁麻疹が出現した。そのうち、せきが出始めて呼吸がゼイゼイし始めた(喘鳴、ぜんめい)なんていうのは危険です。

 せきや喘鳴などの呼吸症状を伴う蕁麻疹は、緊急の治療を要します。なぜなら窒息のリスクがあるからです。こういう患者さんには救急車ですぐに来てもらうことを説明していますし、アドレナリン自己注射薬であるエピペン(商品名)を処方します。

 このような蕁麻疹だけでなく呼吸症状や血圧低下を伴うものを、アナフィラキシー(アナフィラキシーショック)といいます。ハチや食べ物によるアナフィラキシーは有名ですね。毎年、報道で目にします。

 さらに頻度は少ないのですが、変わったタイプのアナフィラキシーもあります。特定の食材を食べたのち運動をして症状が出現する、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis, FDEIA)。小麦で起きるFDEIAがよく調べられており、小麦の成分であるω-5(オメガファイブ)グリアジンが原因物質であることもわかっています。病院に行けば、ω-5グリアジンの血液検査が保険適応で可能です。

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3つ目の誤解とは…