閑話休題。
15~16世紀には黒ブドウと緑色のブドウを使い分けて、赤ワインと白ワインという概念が確立した。微生物の発生や酸化を防ぐための亜硫酸の添加もこのころから行われるようになった。硫黄燻蒸を用いて亜硫酸を混ぜていたのだ。
■金属をぐるぐるにしたコルク抜きが難点を変えた!
17世紀にコルク栓が利用されるようになり、17~18世紀には質の高いガラス瓶が使われるようになった。ワインの流通が容易になり、また盛んになる。コルクはコルクガシという木の樹皮からできる。最大の産地はポルトガルだ。
コルクは当初、抜くのが面倒くさいのが難点だったが、金属をぐるぐるにしたコルク抜き、cork screw(コルクスクリュー)ができて抜栓は実に容易になった。
ぼくは子供の頃、ボクシング漫画で「コークスクリュー・ブロー」という言葉が存在するのをはじめて知った。この「コーク」はコーラのことではなく、コルクのことだ。コルク抜きのように腕を回転させるパンチだから、コークスクリュー・ブローなのだ。
さて現在、ワインはフランスやイタリアだけでなく、世界中で造られるようになった。ヨーロッパではスペイン、ドイツ、オーストリア、スイス、クロアチア、ギリシャなど銘醸地がたくさんある。南米だとアルゼンチンやチリが有名だし、南半球ではほかにもオーストラリアやニュージーランド、南アフリカなどでおいしいワインが造られている。アメリカ合衆国やカナダでも質の高いワインが造られているし、中国が近年、世界的なワイン産地になったのはすでに述べた。
日本でワインが本格的に造られるようになったのは明治時代からだ。戦争前にはたくさんのブドウ園(ワイナリー)があった。なぜかというと、戦時中、醸造時に生成される酒石酸(しゅせきさん)が酒石酸加里ソーダ(ロッシェル塩)を作る原料になったため、日本でのワイン醸造が奨励されたからだ。ロッシェル塩は音波を伝える特性があったため、艦船に装備して潜水艦や魚雷に対処する兵器として使われたのだとか。
第二次世界大戦ではドイツがまず音波防御レーダーを開発。日本海軍は1942年のミッドウェー海戦で大敗。その反省を受けてロッシェル塩を利用した探索技術を習得させたという(国税庁ホームページから)。
◯岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など