フロントガラスの向こうには、もう有頂天としか言いようのない満面の笑顔を浮かべて、ハンドルにしがみついている大センセイの姿があった。
「あなたに間違いありませんね」
「あはは、間違いないでしょうね」
「では、略式裁判をやりますんで、あちらの部屋へ」
大センセイ、この一発で数万円の反則金を支払うことになった。車のローンを払い始めた矢先の反則金は、Nちゃんではないけれど、もう勘弁してくださいよと泣きたくなるくらい、痛かった。
それにしてもオービスの写真はあまりにも鮮明で、そして大センセイ、あまりにもいいカオをしていた。
「あのー、その写真くれませんか」
「ダメです」
「だって、自分が運転してるところを前から撮ってもらえることって、あんまりないじゃないですか」
「ダメ、ダメ、ダメ」
その後も大センセイ、何度もネズミ捕りにひっかかっては、その度に、冷や水を浴びせられたような気分になったものである。
一発免停を食って適性検査を受けると、
「あなたは自動車の運転に向いていません」
という結果であった。
だから大センセイ、運転をやめたんである。車に乗るのは大好きだったけれど、やめた。人間の本性なんて、そうそう変わりはしない。
近頃めっきり会わないけれど、Nちゃんはまだ駐車違反を続けているだろうか。
※週刊朝日 2018年11月30日号