欧米人と東アジア人の表情の平均顔を見ると、欧米人は口元から、東アジア人では目元から、より強く表情を表出することがわかったのです。
欧米では、街角ですれ違って挨拶するときはばっちりの笑顔で、「何を考えているか、わからない」と言われないよう、表情をしっかり作らねばなりません。その際に強調すべき重要なポイントが、口元にあるのです。表情を作り上げるうえで、口をしっかりと横に伸ばして笑顔を作ることが必須なのです。
欧米人が作る歯をにっかりと見せる笑顔は、日本人にとってはどことなく不自然に感じられることもあります。一方でアジア人の表情は欧米人にとって、わかりにくいといわれるのです。日本人は目元を主とした控えめな表情になることが多く、このわずかな目元の表情を読み取るのが日本人のコミュニケーションの特徴なのです。
2010年代に入って、眼球運動を測定する装置を使い、表情を見る実験が行われました。すると、欧米人は相手の口元や顔全体を見るのに対し、東アジア人は相手の目元に注目することがわかったのです。
さらに私たちの実験室で赤ちゃんを対象に同じ実験をしたところ、生後7カ月から日本人の赤ちゃんは東アジア人らしく目元を見る一方で、イギリスの実験室でのイギリス人の赤ちゃんは欧米人らしく口元をよく見ることがわかりました。大人と同じ、自身が属する文化に即した顔の見方は、なんと生後7カ月ですでに獲得されていることが証明されたのです。
まだ言葉も発せない1歳未満の小さい赤ちゃんでも、毎日目にしている母親の表情を学習しているのでしょうか。
この実験でも証明されたように、日本人は表情を読み解くときに目を見るのです。そのため目を隠すサングラスは、日本人には表情を隠されたように思えて、拒否感を持つのでしょう。
サングラスで目を隠すのが嫌いな一方で、日本には「顔隠し」の文化があると主張する研究者がいます。平安時代の日本女性は、扇子で顔を隠していたこともありました。
扇子で隠すのは、主に口元です。口元を隠すことは今も続き、日本女性は笑うときに口元を隠すことがあります。当たり前のようにも思えますが、欧米ではない仕草で、違和感を抱かれることもあるようです。
そしてこの顔隠し文化は、意外なところで継承されているようです。