感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。
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前回、生物学者の「シュワン」さんが「酵母が発酵の主役やねん!」と意見したら、化学者の「ベルセリウス」さんに「じゃっどん、そんなわけないでごわす」と反論を受けたところまで説明した。多少、セリフは盛っています。
ベルセリウスは炭素、水素、窒素からできている分子を「有機物」と名づけた人だ。シュワンとベルセリウスの対立は、生物学者のシュワンと化学者のベルセリウスたちの価値観、世界観の対立と解釈してもいいかもしれない。
「フリードリヒ・ヴェーラー(1800-1882)」と「ユストゥス・フォン・リービッヒ(1803-1873)」は、ドイツの化学者でベルセリウスの弟子だ。彼らは「微生物が糖を食べ、うんこのようにアルコールを排泄するなんてばかばかしい」とシュワンを攻撃した。
では、ヴェーラーとリービッヒがどう考えていたかというと、「死んだ酵母が腐敗する時に振動が起きる→その振動が糖を破壊する→その破壊産物がエチルアルコールになる」と主張していた。現在から考えるとおかしな主張だが、当時としては信憑性(しんぴょうせい)の高い学説と考えられていた。
■おかしな主張だけど当時としては正しかった、は科学の常
ま、こういう「現在からみるとおかしな主張だけど当時としては正しかった」というのは科学の常である。今の主流の学説だって、未来の世界で振り返ると「おかしな暴論」に転ずるのである。ぼくらは未来の識者にそう言って批判される覚悟を決めておかねばならないのだ。
繰り返す。「現在主流の学説」にはご用心、なのだ。