SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「豊かさ」。
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子供の頃から、「わが国は戦後奇跡の高度経済成長を遂げて、世界第二位の経済大国になった」なんて刷り込まれてきたせいか、大センセイ、日本人はアメリカ人に次いで、世界で二番目に豊かな生活をしているものだと、ずっと信じていた。
ところが、つい最近になって知ったことだが、国民ひとり当たりのGDPを見ると、先進国の中でもちっとも多い方ではなく、二五位に過ぎないそうである。
ちなみに、アメリカは八位。上位には欧州の国々が多く、一位はルクセンブルクという小国。わが飽食の日本国がベスト一○にも入っていないとは、まったくもって驚きであった。
ところで、大センセイにはTさんという物書きの先達がいる。師と呼ぶのは大げさだが、文章を書く心構えや取材の技術などを教えてもらった人である。
あるとき、Tさんと酒を飲んでいて、豊かとはどういう状態か、という議論になったことがあった。
Tさんも大センセイ同様、貧乏暇なしのライター稼業だったから、いつも金がなかった。だから、居酒屋に入っても肴は味噌キャベツぐらいしか頼まずに、酎ハイやらホッピーやらをチビチビ啜りながら延々としゃべるのである。嫌な客だ。
Tさんが言った。
「ヤマちゃんはさ、どういうときに、こう、豊かさを実感したりするわけ?」
「そうですね、畑耕してナスとかトマトの苗を植えたりしてるときですかね」
大センセイの実家は、近所に菜園を借りているのである。
「ふーん。いかにも弥生的というか、農耕民族的な感受性だな」
Tさんは、何でも縄文と弥生に分けなくては気が済まない。そして、謹厳実直なツマラナイ生き方をしている人間はみんな弥生的であり、自分には縄文人の血が脈々と流れていると言い張るのである。