そもそも坪山氏は、KCIAが金大中氏拉致を計画していることなど露ほども知らなかったという。彼はただ「北朝鮮主導で南北を統一するという金大中氏の“高麗連邦”計画を思いとどまらせるため、接触して説得したい」と金東雲から説明され、それを信じて依頼を請けたのだ。

「その後、金東雲が唐突に私に2千万円もの小切手を差し出してきました。さすがに断りましたが、あまりに高い金額に何かキナ臭いものを感じ、それできっぱりと手を引きました。もちろん拉致には一切かかわっていません」

 また、坪山氏は金大中氏の所在を捜す際、旧知の警視庁公安部捜査員の協力を得ている。このことも事件後に明らかになっており、一部の左翼系メディアに「警視庁はKCIAの動きを事前に知っていたのでは?」と疑う記事が書かれたこともあった。この点についても坪山氏に尋ねてみたが、「彼は私とは古い“呑み仲間”で、友人として頼まれてくれただけ。公安部にもとくには報告などしていないと思いますよ」とのことだった。

 ところで、私は同じく09年春、やはり自衛隊の情報部門の元幹部である塚本勝一・元陸将に話を聞く機会があった。金大中事件直前まで陸幕2部長を務めていた人物である。

■“自衛隊暗躍説”はなぜ広まったのか?

 初代の駐韓防衛駐在官を務めるなど、“韓国通”として知られる塚本氏も当時、共産党機関紙「赤旗」などで、あたかも事件に関与していたがごとく書かれたことがある。とくに坪山氏のミリオン資料サービスについて、「塚本2部長が部下の坪山3佐に作らせた」と指摘されたが、これについては塚本氏も坪山氏も強く否定する。

「まったく無関係。事実無根のことを書かれてたいへん迷惑している」(塚本元陸幕2部長)

 たしかに、同社は現在に至るも東京都内に存続しており、老舗の信用調査会社として営業を続けている。代表の坪山氏は東京都調査業協会副会長まで務めたことがある。実体のないダミー会社などではないことは、こうしたことからも裏づけられる。

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