500部隊図書部については、かつて共産党などが「米軍内に旧日本軍将校を中心とする山崎機関という秘密スパイ組織がある」と問題視し、国会で追及したことなどもあったが、関係者に取材するとそういうことではなく、やはり純粋な資料分析チームだったようである。ちなみに、この図書部と陸幕2部別班に直接の関係はない。
■詳細がいまだ不明な「秘密のダミー事務所」
500部隊のヒューミントとしては、陸幕2部別班のほかに、陸幕2部との直接的なコンタクトや、さらには公安警察や内閣調査室(現・内閣情報調査室)、公安調査庁とのコンタクトもあった。ヒューミント活動の拠点は、キャンプ座間やキャンプ朝霞、前出の六本木ハーディ・バラックスのほか、横浜ノースドックにもあった。
また、今回話を伺うことができた元別班員によると、「500部隊はいくつか秘密のダミー事務所を持っていた。そのひとつに、ネルソンという人物が代表を務める“マキノ事務所”という事務所があった。そのスタッフは陸幕2部や内局調査課にも直接出入りしていた。米側でもCIAの人間などが出入りしていた」という。
この“マキノ事務所”なるダミー事務所については、残念ながら詳細は不明である。
現在、500部隊は本部をハワイに移転させており、キャンプ座間にはその傘下部隊である「第441軍事情報大隊」が配置されている。私はこの第441軍事情報大隊が08年秋に作成した日本人従業員募集要項を入手したが、それによると、勤務地は六本木ハーディ・バラックスと横浜ノースドックになっている。しかも、仕事内容の筆頭は「日本側カウンターパートとの交渉の補助」となっており、そのカウンターパートとして内閣官房(おそらく内閣情報調査室)、警察庁、外務省、法務省(おそらく公安調査庁)が挙げられている。
つまり、米陸軍情報部隊は現在でも、日本側の公安機関と密接な関係にあるということである。
ともあれ、半世紀にわたって日本の外交を担ってきた自民党が敗北し、日米同盟にも転機が訪れている。民主党はかねてより、冷戦時代の“核密約”について情報を開示する方針を明言しているが、新しい時代の日本の進路を考えるためにも、正しい戦後史・昭和史を検証することが是非こそ必要であろう。
金大中事件に限らず、昭和の未解決事件の背後に日米同盟の秘部がかかわっていたというケースは、まだ他にもありそうに思えてならない。(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎)
※週刊朝日 ムック「真犯人に告ぐ! 未解決事件ファイル」(2010年1月25日発行)より抜粋