




最近、昔と比べて声が低くなったり、逆に高くなったりしたと感じたら、それは声の老化かも。声は第一印象を左右する重要な要素。声帯の衰えは誤嚥の原因になることもある。
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「仕事を辞めてから、ボソボソと何を言っているかわからないと妻に言われて……」
60代の男性は定年退職後、発声のトレーニングを始めた。発声と滑舌の訓練を重ねることで、ずいぶんと話し声がはっきりしてきたという。
この男性の悩みは気のせいではなく、おそらく声の老化のサイン。「たかが声」と思われがちだが、話し方や話し声は、顔と同じ、いやそれ以上に相手が抱く自分への印象を大きく左右する。あいさつやプレゼンテーションなど人前で話すとき、よく通る“いい声”の人は、話している内容まで何だかよく聞こえるものだ。
改めて自分の声に意識を集中してみよう。昔より声が低くなったり、逆に高くなったり、滑舌が悪くなったり、店員を呼んでも気づかれないことが多くなったり……最近そんな声の変化が目立ってきてはいないだろうか。ぜひ下のリストでチェックしてみてほしい。
【7つのセルフチェックリスト】
□ 久しぶりに会った相手から、話し声が低くなったと言われる
□ 高い声が出しにくい
□ 息が続く限り「あー」と声を出して、12秒以上声が続かない
□ 声がかすれてよく通らず、店員を呼んでも気づいてもらえない
□ 滑舌が以前より悪くなった
□ 大きな声や強い声が出なくなった
□ しゃべるとすぐに疲れてしまい、人と話す機会が少なくなった
女性の場合は閉経後、声の老化が顕著になる。40代後半から50代で女性ホルモンの分泌量が減り、その影響で声帯がむくんで太くなり、声が低くなるのだ。逆に男性は、女性とは反対に声が高くなることがある。ホルモンの影響はあまりなく、粘膜や声帯の筋肉が硬く萎縮するためだ。
喉の病気や声の悩みを専門にする東京医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師の本橋玲医師は、こう説明する。
「声にハリがあると若々しく感じられます。声帯の老化は声の質に影響を与えるだけではありません。声がかすれる場合、声帯に隙間がある可能性があり、それは誤嚥の原因になることもあります」
声の老化を発声のメカニズムから説明しよう。老化の原因の一つは声帯やその周りの筋力の低下だ。声帯は声の音源。喉仏の奥にあり、2本の弦のような形をしている。ギターと同じように、その弦が振動することで音が出る。そのため弦の状態や、それをうまく使えるかどうかで声の質が決まる。
2本の弦は息を吸うときに開き、閉じると声が出る。声帯がピッタリと閉じていて、気道から上がってきた空気によって弦がきれいに振動すると、いい音が出る。
ところが声帯周りの筋肉が衰えると、二つの弦がしっかり閉じずに隙間が空いてしまう。すると、弦がきれいに振動しなかったり、その隙間から息が漏れてかすれた声になったりする。
本橋医師は、「若い声帯は生肉だが、老化するとビーフジャーキーのようになる」とたとえる。
「筋肉だけでなく、声帯には肌と同じように粘膜があります。粘膜の層の中にはヒアルロン酸やコラーゲンがありますが、老化でそれらの物質が減少すると弾力がなくなります」
だが、あきらめるのはまだ早い。身体のほかの部分と同様にトレーニングやケアで若々しい声を取り戻すことは可能だ。
著書に『声が20歳若返るトレーニング』がある上野ヴォーカルアカデミー代表専任講師の上野実咲さんは、プロから一般の人まで発声のトレーニングを指導している。その上野さんがすすめるトレーニング法はイラストと写真の通り。
「普段の話し方がボソボソ低く話しがちな人は多い。そのほうが楽に声を出せるので、体が反応するのです。でも、しっかり出すべきときには出せるように声をコントロールする感覚をつかむことが大切です。自転車に乗る感覚と同じで、発声も一度感覚をつかめば自然にできるようになります」
(井艸恵美)
※週刊朝日 2018年7月13日号より抜粋