離れたところからの見守りサービスだけでなく、高齢者世帯と子ども世帯が近くに住むことの支援制度もある。高齢者のケアだけでなく、少子化対策としても、「近居」や「同居」に期待が寄せられている。

 都市再生機構は13年から、近居による家賃の割引制度を本格的に始めている。子育て世帯とその親の世帯が同じ住宅団地内に住む場合、家賃を5年間で最大20%割り引く。16年度、関東、関西、東海など5大都市圏の約7千世帯がこの制度を使った。高齢の親を地方から呼び寄せるケースもあるという。

 厚生労働省は25年までに、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らせる体制を整える方針だ。「地域包括ケアシステム」と呼ばれ、在宅医療や訪問介護サービスを地域でくまなく提供する。IoTはそれを支えるカギの一つになる。

 パナソニックは地域包括ケアシステム構築を見据え、大阪府交野市や愛知県豊田市などの単身高齢者宅で実証実験をしている。呼吸や身体の動き、ドアの開閉などを感知するセンサーや、遠隔操作できるエアコン、服薬を指示する通話機能付きカメラなどを住宅内に設置。離れて暮らす家族やケアマネジャーが最新技術を使いつつ、高齢者の暮らしをサポートする。

 睡眠状況やトイレの利用回数、日々の行動パターン、投薬やケアの実績なども踏まえ、最適なケアプランを提案したり、介護事業者の業務を支援したりするシステムやビジネスの確立をめざすという。

 同社で見守りシステムを担当する木田祐子さんは「高齢者が自立し、いきいきと暮らせる社会の実現につなげたい」と話す。

 情報通信機器やデジタル家電は、私たちの生活や社会に不可欠な存在になってきた。高崎健康福祉大の安達正嗣教授(家族社会学)は「高齢者の中でも、使いこなせる人とそうでない人の格差が拡大している。今後は高齢者に特化したメディア教育も必要」と話す。

 情報機器が進化し、少子高齢化がさらに進むと、高齢者を取り巻く家族の姿も変わるのだろうか。

 安達教授はこう指摘する。

「生活に根差し、愛情を基本とするからこそ、家族は成立する。この点は社会がどう進化しようと変わらない。最新機器を介したコミュニケーションでも、互いの思いや感情を積極的に発信して共有することが大事です」

 感情や思いを尊重しつつ、地域や社会の未来像を描くべきなのだと思う。(藤嶋亨)

週刊朝日  2018年1月26日号