クリスティン・マクヴィーは、リンジーと新作の準備を重ねている間に「デュエット・アルバムになるだろうと感じていた」という。2人が曲を共作したことはあるが、今回ほど積極的に取り組んだのは初めて。いざこざの絶えなかったメンバーの間にあって、リンジーとクリスティンは何のしがらみもなく、音楽的な側面で交流を保ってきた。それが今回のデュオ作の制作・発表を促した要因と言えそうだ。
リード・シングル「イン・マイ・ワールド」は、フリートウッド・マックの黄金期のヒット曲を想起させる。リンジーのフィンガー・ピッキングによる生ギターをフィーチャーした「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」も同様に懐かしさを覚える。
「スリーピング・アラウンド・ザ・コーナー」や「レイ・ダウン・フォー・フリー」でのベース、ドラムスの迫力は、ジョン・マクヴィー、ミック・フリートウッドによる強力なリズム・コンビの存在を再認識させるとともに「フリート・ウッドマックの新作である」とのイメージを強くする。
リンジーはフリートウッド・マックで、パンクの要素も含め、革新的なアイデアをふんだんに導入してきた。今回は、作曲のほか、ギタリスト、アレンジャーとして八面六臂の活躍を見せている。一方、クリスティンは「いつわりのゲーム」「カーニヴァル・ビギン」など、ピアノの弾き語りによる叙情的なバラード作品を披露している。
2人の共作品は、60年代のポップ・ソングを思わせる「フィール・アバウト・ユー」やジャングル・ビートを採り入れた「トゥー・ファー・ゴーン」など、遊び心にもあふれている。
本作に収録された作品の歌詞も興味深い。先述の『噂』には、メンバー間での私的な出来事や内実をあからさまにした作品が収録されていた。今作では、よそよそしい関係のまま、見て見ぬふりをしながら活動を続けてきたグループの過去を振り返る歌詞が大半を占めている。再出発に賭ける意気込みをうかがわせる作品もある。
「オン・ウィズ・ザ・ショウ」は2014~15年に成功させた再結成ツアーの表題そのもの。フリートウッド・マックの新作となるはずだったことを物語るが、そうならなかったのはスティーヴィー・ニックスの不在によるのは明らかだ。
今作が発表されたことで、黄金期のメンバーによるフリートウッド・マックの新作の登場は当分の間、望めそうにない。スティーヴィーの不在は惜しいが、それに代わるアルバムとしてファンを喜ばせるのに違いない。(音楽評論家・小倉エージ)