五輪女子マラソンで銀・銅メダルを獲得し、日本中に感動を与えた有森裕子さん。そのキャリアを生かし、さまざまな社会活動をされています。東京五輪に向けていろいろな問題が浮き彫りになるいま、五輪やスポーツが持つ可能性について、作家の林真理子さんが伺いました。
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林:一昨年、新国立競技場の建設費が膨らんで問題になったときには、有森さんの「涙の訴え」が話題になりましたね。
有森:ああ、新国立競技場問題を考えるシンポジウムに出席したときのことですね。あのときはまったくのプライベートでのぞいてみただけなので、発言するつもりはなかったんですよ。でも主催者や先輩のオリンピアン(オリンピック選手)に見つかってしまって(笑)。「最後に一言」と言われて断れなかったんです。話しているうちに感情的になって、不覚にも泣いてしまいました。
林:そうだったんですか。「オリンピックはみんなを元気にするものなのに、負の要素と思われるのは本望ではない。非常に残念だ」と有森さんが涙ながらに訴える映像、ずいぶんテレビに流れましたよね。
有森:新国立競技場の問題が注目されていたときだったので、メディアの取材がきていたんです。私自身も招致活動に参加したし、東京にオリンピックを呼べたことを喜びました。でもどんどん膨らむ経費に怒っている人もいる。批判の矛先はアスリートに向けられてしまいます。現役アスリートのほとんどは協会に属していますし、しがらみもあって発言しづらい。私は引退しているし、どこの組織にも入っていないから言うことができる。もちろん、現役アスリートたちにも「お金の問題は自分たちには関係ない」とは思ってほしくない。そんなことを訴えたんです。そしたらその10日ほど後に安倍(晋三)さんが「白紙撤回」と言ったので、「やったあ!」と思いました(笑)。
林:東京オリンピックも近づいてきて、有森さんはいろいろ重要な役割を担っていらっしゃるんじゃないですか。