徒歩で1周できるくらい小さく、住民よりも猫の数が多く見られる「猫島」。空前の猫ブームの真っただ中とあって、その存在に注目度が上がっている。しかしながら、猫島には島ごとに問題を抱えていることはあまり知られていない。ライター・瀬戸内みなみが「天売島」をレポートする。
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北海道羽幌町(はぼろちょう)の天売島(てうりとう)は、「日本最北の猫島」といっていいのではないだろうか。この島で7月2、3日、「天売猫の譲渡会in天売島」が開催された。
参加者の多くが島の住民だ。猫クイズなどのイベントや地鶏焼きの模擬店などとともに、飼い主を求めている猫5匹がケージに入れられて展示された。天売島で捕獲されたノラ猫で、島外の猫愛護団体やボランティアに預けられて馴化(じゅんか=人間と生活できるように馴らすこと)したものだ。来場者と触れ合い、日程を終えた猫たちはそれぞれ預かり主の元へ帰っていった。
「会は成功でした」
と、羽幌町町民課の小笠原悠太さんはいう。
「譲渡会」でありながら猫が引き取られることはなく、その猫たちも元々は天売島で暮らしていたというのに、「成功」というのはどういう意味なのか。
「今回は譲渡よりも、島民のかたがたに猫問題への取り組みを広く理解してもらうためのものでしたから」
天売島は「海鳥の楽園」と呼ばれる。周囲約12キロの小さな島の東側、平坦な海岸沿いには人間が暮らしている。現在の人口は約320人。そして島の西側では、高さ100メートルを超す断崖が、8種類100万羽が飛来する海鳥の繁殖地になっているのだ。天売島はひとと海鳥が共存する、世界でも珍しい島なのである。
その海鳥の平和が脅かされるようになったのは、30年ほど前からだ。ペットとして持ち込まれた猫が増え、ノラ猫となって海鳥を狙い始めた。
「もっとも、海鳥が減少している原因は猫だけではありません」
と話すのは、北海道海鳥センターの自然保護官、竹中康進(やすのり)さんだ。海鳥センターは環境省と羽幌町が共同で運営する海鳥専門施設である。
「肉食のオオセグロカモメやハシブトガラスも、海鳥のヒナを狙っています。海洋環境の変化による餌の減少や、漁網などの漁具にかかってしまうことも原因として考えられます」
猫は推計200~300匹にまで増えた。食べ物を求めて海鳥繁殖地に出入りするだけではなく、交通事故や、家へ入ってくるなど、島民の日常生活にも影響を及ぼし始めた。