西武・菊池雄星投手が巨人戦に登板したときの投球内容を西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が分析した。

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 プロ野球の交流戦はまだ半ばではあるが、西武が勝率5割前後に戻してきた(6月7日時点で4割9分1厘)。開幕から不安定だった投手陣がしっかりしてきた印象を受ける。左の菊池雄星、右の高橋光成が、勝つ中でどんどん自信を深めていってほしい。

 6‐2で巨人を下した7日の試合(西武プリンスドーム)で、菊池の投球を見た。三回までに六つの空振り三振を奪った球威、変化球のキレは素晴らしかった。ただ、巨人打線が2巡目に入った四回、変化球でカウントを取れずに2四球を与え、2点を失った。

 この日の投球内容を分析してみよう。

 ふだん対戦しない巨人の打者は、パワーピッチャーの菊池の直球に負けまいと、かなりの確率で速球を待っている。変化球が多少甘くなっても、本塁打を打たれることはない。もっと簡単にストライクを取りにいってもよかった。仮に本塁打されても、ソロなら1点。球数が増えて投球リズムを崩し、長い回を投げきれない状況に陥るほうが、ベンチにとってはつらい。

 先発投手が1試合を投げきる場合、打者は打席に立つたびに球に目が慣れてくる。各打者と3打席ずつ対戦するとすれば、3打席目にいかに的を絞らせないかが大事だ。菊池には球威という武器があるのだから、序盤も速球で押し切るくらいでいい。

 
 捕手の炭谷銀仁朗と話し合い、もっとカーブを交えてもよかった。三回まではうまく使っていたのに、四回のピンチでは、直球、スライダー、チェンジアップの組み合わせだった。球速差が縮まるので、打者は「緩・急」の「緩」を捨てて待つことができる。

 米大リーグで右ひじの手術から復活したダルビッシュ(レンジャーズ)もよく使うが、パワーピッチャーにカーブは実に有効だ。緩急だけではない。スライダーのように「指で切る球」はしっかりと腕を振る必要があるが、「抜く」感覚のカーブは腕のスタミナをうまく温存できる。これから完投数を増やすうえで、使い方を学んでほしい。

 菊池はある試合で、極端に言えば、あるイニングで、突如崩れることがある。投球フォームを試合の中で修正する光景も目にする。試合中、ファンの目にも明らかな大幅な修正をしているようではダメだ。

 私が気になる点を一つあげるなら、セットポジションで投げる際の歩幅が肩幅より広いこと。肩幅より広いということは、右足を上げ、軸足である左足1本で立つときに体の「反動=ブレ」を使っているということだ。体全体のバランスがとれるときはいいが、そうでないとブレが一定しない。なぜ投手コーチは指摘しないのだろうか。

 将来のエースを育成するうえで、特長をつぶしてはいけない。目先の1勝のために、細かい点をいちいち指摘しないほうがいい。ただ、菊池の歩幅の問題は、投球動作そのものの修正ではない。

 西武の野手陣は成熟してきている。今こそ、投手陣を整備しておくタイミングだ。個人の育成はもちろん、そうしたチームづくりの観点からも、菊池と高橋光成の2人に注目している。

週刊朝日  2016年6月24日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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