高齢の親とのやりとりに苛立ちながら遅々として進まない、実家のかたづけ。子どもたちにはどんな心構えが必要なのだろうか。

「年配者にとって、物は単なる『モノ』ではないことを肝に銘じることから始めましょう」

 そう話すのは『親の家をどう片づける』(実業之日本社)の著者で、生前整理や遺品整理の現場に10年以上携わってきた民間会社「e品整理」FC本部代表取締役の上東丙唆祥(ひさよし)さん(44)だ。

「モノには親の人生と思い出がいっぱい詰まっている。その絆を突然断ち切るようなことをするのはタブーです」

 上東さんはかつて、下町で小さな店を経営する男性の娘から「家を建て直して同居するので、かたづけを」と頼まれた。しかし打ち合わせの段階で、すでに親子の間には不協和音が。一刻も早く“不用品”を始末して新たな生活環境をつくりたい娘と、家という“人生の象徴”に思いを残す父。父は口を開くたび、娘から「そうじゃないでしょ!」と遮られていた。

 そこで上東さんは数日間、かたづけは話題にせず、父の言いたいことにじっくりと耳を傾けることにした。家族の歴史、家を持った日のこと、商売についてなど、とことん聞いた。

 すると、当初「捨てるものは何もない!」と頑なだった父の態度が「やっぱり建て替えなきゃな」に変わり、最後は「この辺のものは全部いらねえや! 持ってってくれよ」と同居に向けて積極的になった。

「物が捨てられないのは自分の心が整理できていないから。来し方をじっくり見つめるうちに気持ちが落ち着き、将来に目を向けられるようになるんです」(上東さん)

「大人片づけ」をテーマにセミナーや講師育成に取り組む日本エグゼクティブプロモーター協会の渡部亜矢さん(48)も、「『やってあげる』ではなく、あくまでサポートの気持ちで取り組んでほしい」と強調する。

 高齢になるほど物は増えやすくなるが、かたづける体力は落ちていく。このギャップを子どもがうまく補うことで、親子関係に好影響を与えるのだという。

 親子で思い出を語り合ったり、子どもも知らない親の若いころの話を聞いたり。そうした雰囲気のなかで作業していくうちに、親は心の整理がつき、子どもも親にとって何が大切かを知る機会になる。

 上東さんはかたづけ作業中、「捨てる」という単語をなるべく使わないという。「これは娘さんにあげましょうか」「私が引き取ってもいいですか」と提案の形で投げかけるのだ。

「親を説得しようと思わず、まずは寄り添ってほしい。そうすれば子どもたち自身が、自然と穏やかな気持ちになるはずです」(上東さん)

 高齢社会が進み、上東さんや渡部さんのような生前整理・遺品整理のプロに対するビジネスニーズは高まる一方だ。2011年、リサイクル業者らが「遺品整理士認定協会」(北海道千歳市)を設立、現在全国330社以上が会員登録している。

週刊朝日  2014年9月19日号