在日米軍兵士らによる犯罪が続発している。その処理に暗躍する日本人がいる。

 現金が入った封筒を受け取ると、ボールペンを渡され、ボードの上に用意された「示談書」に署名を求められた。

「すべての請求・要求から○○(米兵名)を永久に免責する」

 英語と日本語で書かれたその書類は、そんな内容だと口頭で説明されたが、写しは渡されなかった。サインすると、米海兵隊側のスタッフだという、日本人の名字を名乗る高齢男性は、すぐに車で走り去った。この間、わずか数分。待ち合わせた駐車場で、立ったままのやりとりだった。

 琉球リハビリテーション学院(沖縄県金武(きん)町)の学生6人が、その男性から相次いで携帯電話に連絡を受けたのは、今年4月のことだ。その1カ月半ほど前、寮の駐車場に止めていた彼ら全員の車のドアガラスやミラーなどが何者かに壊された。6人は、1万~7万円程度の被害届を警察に提出。4月になって、容疑者として海兵隊員(21)が書類送検されたことが地元紙などで報じられた。学生の携帯電話に男性から連絡が入ったのは、その直後のことだった。

 冒頭の学生の「示談場所」は駐車場だったが、同学院によると、町内の交番に呼び出されて署名を求められた学生も複数人いた。警察が関係していると思い込んだ学生もいたという。学生によると、男性から謝罪の言葉はまったくなかったという。冒頭の学生は言う。

「あれ、説明はないわけ? これだけ? と思いましたが、米兵は反省していると言われたので、もういいかと思いました」

 この動きを知った同学院側は、沖縄防衛局や県警に抗議。それから10日ほどたって、海兵隊側は容疑者の兵士を連れて同学院を訪れ、謝罪した。同学院によると、このとき同席した高齢男性は、以前の別の海兵隊員がらみの事件でも、示談の場に交番を利用していたと説明したという。儀間智理事長は言う。

「金武町で生まれ育って、米兵に物が壊されたなどの事件はいくつも知っているが、個人的には友人としていい付き合いをしている米兵も多い。ただ今回は、米軍が謝罪もせずにこういう処理をすると知って愕然とした」

AERA 2012年11月26日号