11月14日に行われた党首討論で、野田佳彦首相は「16日に衆院を解散する」と唐突に明言した。首相はTPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加を切り札に、“逆転”を狙っていると、ジャーナリストの田原総一朗氏は分析する。

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 なぜ野田首相は、突然TPP交渉参加を打ち出したのか。民主党内に少なからぬ反対勢力がいて、まとまらないことはわかっていたはずだ。それに、TPPが総選挙の争点になりうるほどのテーマとは思えない。

 野田首相に近い党幹部はその意図について「2005年に小泉純一郎元首相が行った郵政解散になぞらえるつもりなんですよ」と説明した。

 当時、小泉元首相が打ち出した郵政民営化については、野党はもちろん、自民党内にも反対勢力が多く、きわめて評判が悪かった。自民党の長老や幹部たちは、郵政民営化を争点に解散・総選挙をやれば、自民党は惨敗すると考えていた。

 ところが、郵政民営化法案が参院で否決されると、小泉元首相は「解散」を宣言。記者会見で「郵政民営化に賛成か反対か、はっきりと国民に問いたい」と命を投げ出すほどの覚悟を示したことが国民の心を強く打ち、予想外の大勝利となった。

 野田首相は「TPPの一点突破で、マスメディアの予想も、国民の常識もひっくり返す。一発逆転で民主党に第1党の座を守らせてみせる」と自信をみせているようだ。野田首相周辺は「格闘技が大好きな野田首相は、ここだと見ると一気に勝負をかける」と漏らした。攻めて、攻めて、攻めまくる。誰もが民主惨敗を予想している選挙で、野田首相はどのような秘策を披露するのか。

週刊朝日 2012年11月30日号