果たして、食料品・飲料の値上げはいつまで続くのか? 大きなカギを握っているのは、食用油の主な原料となる菜種や大豆、パーム、そして広範の食品に用いられる小麦などの商品(コモディティ)市況だ。この分野に詳しい楽天証券経済研究所コモディティアナリストの吉田哲さんはこう説明する。
「ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後の高騰時と比べれば、全般的にかなり下がりました。しかし、20年の春と比べると、まだ高い水準に位置し、いわゆる“高止まり”の状況です」
20年の春はコロナ禍が起点となり、感染拡大による景気の悪化を防ぐために米欧の中央銀行が積極的な金融緩和(資金供給)を実施。市場に溢れた資金の一部がコモディティに流入し、価格が上昇するようになった。
「そして、経済活動が徐々に再開されてコモディティの需要が回復傾向を示し、価格上昇が顕著に。さらに、ウクライナ侵攻の勃発で歴史的な急騰を記録しました。ロシアやウクライナは穀物の主要生産国で、供給が急減することが懸念されたのです」
その後に下落基調に転じたのは、インフレの進行で米欧の中央銀行が金融引き締め(利上げ)に転じたから。その副反応で景気が悪化し、需要が減るとの観測が広がった。もっとも、ウクライナ問題が解決しない限り、今後も波乱含みだという。
「ロシアとその同盟国のベラルーシ、ロシアを積極的に否定しない中国は化学肥料の輸出大国で、合わせると世界シェアの約3割を握っています。ウクライナを支援する欧米との対立次第では、輸出停止というカードを切る可能性もあります」
一方、コモディティ市況と食品・飲料の価格にはタイムラグがある点にも留意しておきたい。
「最も川上がコモディティ市況で、川中に輸出入価格、その下流に卸売価格、川下に食品・飲料の小売価格が位置しています。川上の動きが川下に反映されるまでには、数カ月間の時間差が生じる場合もあります」
食用油の主要原料のうち、菜種とパームの価格は足元で下がり気味だが、逆に大豆はやや上昇傾向。菜種油やパーム油の値上がりは一服となる可能性が考えられるが、大豆油は油断禁物か。小麦には政府売り渡し価格が定められており、ある程度は国のコントロールが可能だ。政府は緊急措置として、通常6カ月間の算定期間を1年間に延長。併せて、2022年10月期の政府売り渡し価格を同年4月期の金額で据え置き、今年3月まで適用される。(経済ジャーナリスト・大西洋平)
※AERA 2023年2月20日号より抜粋