サラリーマンのあこがれの的、総合電気産業テコット社長の島耕作(65)が、会社組織の「頂点」、会長に就任する。作者の弘兼憲史さん(65)が「会長の心得」を聞き出すために訪れたのは、ユニクロの柳井正・会長兼社長(64)。テコット、ユニクロともに直面する中国問題について語った。
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柳井:島耕作さんもついに会長ですね。
弘兼:そうなんです。しかし、会長という存在は、代表権や人事権があったりなかったり、会社によりいろんなパターンがあります
柳井:ええ。一般的には、実務は社長に任せて、会長は経営執行の上の立場から、会社や経営はどうあるべきか、世間との付き合い方はどうするべきかという、会社のあり方そのものを考えて方向づける存在ですね。大抵は取締役会の会長ですから、社長をクビにもできる(笑)。
弘兼:一応そうですね。島会長にも人事権があります。柳井さんは社長でもあり会長でもあるから大変じゃないですか?
柳井:社長っていうのは主体者だから、熱中しすぎると自分が見えなくなることもあります。そういうときは社長と会長の立場から自問自答するんです。でも自問自答するより、会長と社長の2人いたほうが確実にいいと思う(笑)。
弘兼:そうですか(笑)。島耕作が会長に就任したあと、社長を任せたのは長年、中国を担当していて中国の内情に詳しい国分圭太郎でした。テコットもユニクロも、海外に進出している日本企業は中国とどう付き合うのかが、最も重要な問題ですね。しかし、反日感情は高まるし、日本のブランドは嫌われる。ユニクロは完全に日本の企業だと知られていますよね? 中国の人は、どういう反応なんですか。
柳井:やっぱりいい反応はないと思います。だけど、我々はほとんどの商品を中国で作ってきて、中国の繊維産業に貢献したという自負がある。それと中国の工場の経営者が優れた人物で、3人くらい全国人民代表大会にいる。そういうパイプがあるので、「ユニクロが中国のために事業をやっている」という、我々の思いを代弁してもらえているとは思います。
弘兼:なるほどね。「アジア立志伝」という、島耕作が狂言回し的に登場してアジアのカリスマ経営者を紹介するNHKの番組があるんです。そこである経営者が「よその国へ行ったら自分たちの利益を上げようという発想ではなく、私たちはこの国に貢献しているんだという、WIN-WINの関係を作らないとダメだ」と言っていました。
柳井:まさにその通りですね。今後はそれに加えて「私たちは世界に対してもこんな貢献をしている」という、取り組みとアピールが大事でしょう。それに他国に行ったら他国の企業になりきらないといけない。日本発だけど、中国にとっていいことと、全世界にとっていいことを実現できる企業であると。そう思われないとうまくいかない。
弘兼:なるほどね。
柳井:いずれにしても、中国の人口は13億人もいる。しかも開放政策で資本主義の面が進み、共産党一党支配ではあるけどアメリカとも近づいています。中国という市場を捨てたらグローバル展開はできなくなるでしょうね。
※週刊朝日 2013年9月6日号