俳優、演出家、脚本家として活躍する河原雅彦氏は、映画撮影現場での待ち時間の使い方について、こう話す。

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 某映画撮影現場での待ち時間をフル活用してお届けしております。

 映像系の俳優さんは『待つのも仕事』だと言われるぐらい、現場では時に非情なまでの“待たされ地獄”に遭遇するわけですが、さすが本職の俳優さんは慣れたもの。

 性格俳優で知られる某ベテラン俳優さんは、コーヒー片手に何冊もの文庫本を持ち込んで真顔で読書です。なんとも優雅ですな。そしていたって有意義。「現場で年間何冊読んでるかわからないよ」とその方は申しております。俳優にとって知識の豊富さはとっても重要。役作りに深みをもたらしてくれることもきっと多いハズ。さすが、容姿端麗だけで売っている薄っぺらい俳優とはわけが違いますな。勉強になりますっ!

 某フェロモン系おじさん俳優は、とにかく寝てます。これも一種の防衛本能でしょう。いつしか、のび太君に匹敵するほどの“睡眠力”を身につけ、床だろうが、公園のベンチだろうが、立ったままであろうが、人と話している最中だろうが、たちまち眠りに落ちることで、待ち時間という名の怪物と渡り合ってきたのだと思います。

 僕なんかは寝てしまうと、肝心の撮影時に頭がぼーっとしてしまうので、とてもじゃないけどそこまでリラックス出来ません。でも、この俳優さんはさっきまでグースカ寝息を立てていても、現場に入るとすぐにしゃきっと演じることが出来ます。連日同じことを繰り返す、持久力を要する舞台俳優と違い、優れた映像系の俳優は瞬発力が肝なのですね。感心しましたっ!

 ヒロイン役のうら若き女優ちゃんは、主に自社の男性マネージャーと笑顔で談笑しています。なるほど、マネージャーと女優がデキてしまうケースはこの業界、多々ありますが、きっとこの流れがそうさせるのでしょう。自分のようなやさぐれ男に近づけまいとガードする一方で、ちゃっかり美味(うま)い汁に与(あず)かるなんて……素直に超羨ましいですっ! もちろん、ほとんどがそんな人達ではないのでしょうけど。

 そして今回、俳優として参加されている某お笑い芸人さんの場合、とにかくずーっとしゃべってます。疲れてくると無口になりますが、しばらく経つと、また嬉々としてしゃべりだす。持ち前のサービス精神もあるのでしょうが、ある意味、尊敬に値します。僕も最初は一緒になってくだらない話をずっとしていたのですが、「浮気現場に遭遇したやぐっちゃんの旦那のリアクション」と題したお題で延々大喜利をやるのには、ホトホト疲れました。終いには、世紀末を感じさせる下衆な会話にいっつもなるので、周りのスタッフさん方の目がたまにマジ冷たいス。

 現場にいる時はずっとなにかしらの仕事をしていることに慣れている演劇人としては、やっぱりこうしてパソコンに向かって原稿なぞを書いているのが一番落ち着きますわ。

 こうなったらクランクアップまでに、半年分ぐらい書き溜めしてやろうかしらん。何気に大喜利も大好きだけど。

週刊朝日  2013年7月12日号