年間手術数15万件といわれる鼠径ヘルニア(脱腸)。虫垂炎約6万件、胆石症約7万件と比べても多い。しかし、治療ガイドラインが確立されておらず、現在作成中という。ガイドライン作成に携わる日本ヘルニア学会理事長・聖路加国際病院外科医長の棚●(※獺のつくりにさんずい)信太郎(さくらいしんたろう)医師に、現状と今後の治療について聞いた。

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 鼠径ヘルニアの手術は専門にする医師が、施術あるいは指導をすれば、再発率は1%以下というところまできています。しかし問題は、術後半年以上たっても改善しない、慢性疼痛が起こる可能性があることです。

 鎮痛剤や神経ブロック、あるいは再手術により末梢神経を切除したり、メッシュ除去などの治療を行ったりしますが、効果がない場合があります。

 鼠径部がふくらんだだけで自覚症状がなかったのに、手術をしたら慢性疼痛が残ったというのでは、患者さんは納得できないでしょう。この慢性疼痛の発生をゼロに近づけることが、今後の治療の課題だといえるでしょう。

 全国で均一の専門性の高い治療が受けられるように、日本ヘルニア学会ではガイドラインを作成中です。また腹腔鏡下手術に関しては、まだすべての医師が同じような技術を習得しているわけではありません。とくに鼠径ヘルニアを専門に診ていないと、正しい治療がなされない可能性もあります。そこで、学会内で日本腹腔鏡下ヘルニア手術手技研究会を立ち上げ、腹腔鏡の研鑽を積むことになっています。

週刊朝日 2012年11月9日号