「37.5度以上の熱が続いていたから保健所に電話したら、新型コロナウイルスの可能性は低いと言われて、でもまだ微熱が続いているから今回受診しました」という方もいらっしゃいました。保健所に問い合わせるも、相手にしてもらえなかった。という声も残念ながら何度も聞いています。やはり国内での新型コロナウイルスの感染は広がっていて、いよいよ身近な存在になってきたなと感じます。

 一方で、どの年齢であっても感染していること、新型コロナウイルスに感染したとしても、8割程度の方は軽症であること、80歳以上のご高齢の方や既往歴のある方では死亡率が高いと言ったことが中国からの報告によりわかっています。残念ながら、ご高齢の方が亡くなるということはインフルエンザや風邪でも同じこと。だから、新型コロナウイルスだけを過度に恐れる必要はないのです。

 ドラッグストアの前にはマスクを手に入れようとする人の行列ができ、インターネット上では普段の何倍もの値段でマスクが売られています。一方、インフルエンザの流行期であるにもかかわらず、新型コロナウイルスを心配する方にインフルエンザの予防接種の有無を聞くと、「インフルの予防接種はしていません」と答える方が多いのが現状です。

 厚生労働省の人口動態統計によると、2018年のインフルエンザウイルス感染によって亡くなった方は3325名。米国でも、毎年少なくとも1万2000人以上が亡くなっています。新型コロナウイルスだけでなく、既知のウイルスであるインフルエンザ対策も必要であるにもかかわらず、少なくとも日本での関心は新型コロナウイルスばかりのようです。

 新型コロナウイルスに対する予防接種はまだありませんが、ご存知の通り、インフルエンザウイルスに対する予防接種は開発されています。花粉症の方は、マスクが必需品であることはわかるのですが、なぜインフルエンザの予防接種はせず、新型コロナウイルスに感染すまいとマスクを手に入れようとするのか、私には不思議でありません。

 新型コロナウイルス対策は、風邪を引かないように日頃気をつけるのとなんら変わりがありません。石鹸による手洗いをこまめに行い、規則正しい生活を心がけ、睡眠や栄養を十分に取る。特別なことは何もないのです。インフルエンザはもちろん、麻疹や風疹など対策が必要な感染症はたくさんあります。日頃の対策とともに、ワクチンの接種により予防できる感染症から予防することが大切だと思います。

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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