プライドの高い父は、自分たちが哀れまれているような気がしたのでしょう。お金を断固として受け取りません。私も、そんなことでよそさまからお金をいただくのは申し訳ないと思ったので、お断りしました。

 何回も押し問答が続きましたが、結局私たち親子が根負けして、ご夫婦のご厚意をありがたく受け取ることになりました。いつの日か東京に戻って、美容学校に通う。そんな夢が突如として実現できたのは、そのお金のおかげです。

 10歳から18歳までの8年間、私は美容とは全く関係もない暮らしをしてきました。家にお金はない。でも私には「こういう仕事をする人間になる」という目標だけは明確にありました。

 東京の美容学校に入ることを決めた私に、友人の中には、「美容学校に行ったからといって、演劇の世界で俳優にお化粧するひとになれるとは限らないよ」と心配してくれるひともいました。

 でも、私の腹は決まっていました。目標はもう定まっている。

 そこに到達するためにはさまざまなアプローチの仕方があるだろうけれど、躊躇(ちゅうちょ)が許されるほど、人生は甘くない。

 少しでも前に進めるときに進め。

 人生にいつ転機がくるかは、誰にもわからないものです。

 そしてその道が正しいか間違っているかも、誰にもわかりません。

 ただ「自分はこうなりたい」という気持ちが強くあるのならば、その一歩を踏み出した瞬間から「やっぱりやめようかな」「本当にこれでいいのかな」「失敗するんじゃないかな」などという迷いは捨てることです。

 それで思い切りやってもうまくいかなかったのなら、そのときに諦めればいい。

 思い切りやったあとなら、自分でも納得ができるというものです。

 自分の人生の賽(さい)を投げるのは、自分以外にいないのです。

【しなやかに生きる知恵】
チャンスは
チャンスをつかむ準備をしている
人間の元に訪れる

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