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人生はみずからの手で切りひらける。そして、つらいことは手放せる。美容部員からコーセー初の女性取締役に抜擢され、85歳の現在も現役経営者として活躍し続ける伝説のヘア&メイクアップアーティスト・小林照子さんの著書『人生は、「手」で変わる。』からの本連載。第4回は、年齢や自分の能力を気にして、夢を追うことをためらっている人へのメッセージ。
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「これから先、こういう仕事をしていきたい」「こういうことを実現していきたい」。そんな「人生地図」を描くことは、私はいくつになっても必要なことだと思っています。
「もう年だから、無理」「夢みたいなこと考えたって、ダメに決まってる」と笑う方もいるかもしれません。でも“ダメ”というのは、誰が決めることなのでしょう。
自分ではなから“ダメ”と決めつけるから“ダメ”なだけで、“ダメ”だと思わなければ、“ダメ”にならないのではありませんか? ならば“ダメ”と思うのをやめればよいだけ。
私の人生の転機は、ある日突然訪れました。養母を亡くしたあとのことです。
その頃私はまだ、小学校の給仕として働いていました。戦後、山形の町でも時々お芝居が上演されることがあり、私はいつか演劇の世界に関わる人間になりたいと思っていました。それも舞台に立つ俳優ではなく、俳優たちのメイクをするメイクアップアーティストになりたいと考えていたのです。
「メイク」という手わざによって、ひとの顔をあっというまに別の顔に変えてしまう職業は、私にとってのあこがれでした。「変身」。それは私自身の心の奥底の叫びだったのかもしれません。
給仕の仕事の一環で、家庭科の先生が使うためのろうけつ染めの授業の見本をつくろうとしていたことがありました。流しで腕時計をはずし、私は夢中で作業をしました。そして別の場所にうつろうとしたとき、私の腕時計はなぜかなくなっていたのです。
探しても探しても見つからず、私は途方に暮れて、見つけることを諦めました。ところがその数日後、とあるご夫婦が私の家にやってきました。聞けばそのお宅の息子さんが、私の腕時計を持ち去り、川に捨ててしまったとのこと。おわびのしるしにと、大きな金額のお金を包んでこられたのです。